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糀谷八幡湿地はなぜホタルが舞う?所沢の荒れた田んぼを市民が復活させた理由

埼玉県 / 所沢市 / 池袋線 | 更新日: 2026-10-24
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EKIRIP LOCAL STORY|所沢・狭山丘陵

糀谷八幡湿地
ホタルが舞う谷戸を、人はなぜ耕し続けるのか。

一度は荒れた田んぼを、市民の手で復元。狭山丘陵に残された「人が守る自然」の物語。

最終情報確認:2026年10月20日

所沢市の狭山丘陵に、夏になるとホタルが飛び交う小さな湿地があります。

その名は、糀谷八幡湿地(こうじやはちまんしっち)。

木々に囲まれた水辺。田んぼが広がり、季節によってはトンボやホタルなどの生きものが姿を見せる、昔ながらの里山風景が残っています。

ところが、この場所を調べると少し意外なことが分かります。

ここは、手つかずの自然がそのまま残った場所ではありません。

一度は使われなくなった田んぼを、地域の人たちが復元した湿地なのです。[1]

しかも現在も、小学生が田植えを体験し、地元の人々が周囲の雑木林を手入れしています。

ちょっと不思議ではないでしょうか。

自然を守るなら、人間はなるべく手を加えない方がいいのでは?

それなのに、この湿地では人が田んぼを耕し、草木を管理することで里山の風景を守っています。

どうやら、この土地には「自然を残すこと」と「人が働くこと」が対立しない理由がありそうです。

なぜ、ホタルの湿地に田んぼがあるのか?

糀谷八幡湿地はなぜホタルが舞う?所沢の荒れた田んぼを市民が復活させた理由 - 所沢駅の写真

最初の手掛かりは、糀谷八幡湿地がある土地の形です。

この一帯は、狭山丘陵の緑に囲まれた場所。

丘陵地には、尾根と尾根の間に細長く入り込んだ低い土地があります。

こうした地形は「谷戸(やと)」と呼ばれます。

谷戸では周囲の斜面から水が集まりやすく、昔から水田などに利用されてきました。

つまり、谷戸の田んぼは、わざわざ山の中に水を運び込んで造るというより、地形が持つ水の流れを生かした農地なのです。

田んぼと湿地は、実は相性がいい

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田んぼを思い浮かべてみてください。

春から夏にかけて水が張られ、植物が育ち、水中では小さな生きものが暮らしています。

農作物を育てる場所でありながら、水辺の生きものにとっても大切な環境になることがあります。

水田や水路、周囲の草地や雑木林が組み合わさることで、一種類の環境だけでは生きられない動植物にも居場所が生まれます。

田んぼは、お米だけを育てているわけではない。

そう考えると、ホタルのいる湿地に田んぼが残っている理由も、少し見えてきます。

谷戸を知ると、風景の見え方が変わる

谷戸は、丘陵の斜面と低地、水の流れが一体となった地形です。水田・湿地・雑木林が近い距離でつながることが、里山らしい環境の特徴です。

ただし、谷戸であれば必ずホタルが発生するわけではありません。水質や水量、幼虫の餌となる生物、周囲の環境など、複数の条件が関係します。

でも、ここで新しい疑問が生まれます。

水田が湿地の一部として大切なら、なぜ一度は使われなくなったのでしょうか。

一度は荒れた田んぼ。なぜ昭和の里山に戻した?

糀谷八幡湿地の歴史を調べると、意外な言葉が登場します。

「昭和30年から40年代の里山の姿」。

所沢市の景観資源の解説では、荒れ放題になっていた湿地をこの時代の姿に復元するため、地元の有志が「糀谷八幡湿地保存会」を結成したと紹介されています。[2]

昭和30〜40年代といえば、1955年から1974年に当たります。

なぜ、この時代なのでしょう。

一般に、かつての里山では、人々が田んぼを耕し、雑木林から薪や落ち葉を利用しながら暮らしていました。

ところが生活様式や農業の変化によって、手入れされなくなる農地や林が増えていきました。

糀谷八幡湿地でも、放棄された田んぼが存在していました。

保存会は、そこを再び田んぼとして使えるようにする「復田(ふくでん)」に取り組みました。さらに湿地の保全と周囲の雑木林の維持管理を続けています。[1]

ここが、この場所の面白いところです。

復元しようとしたのは、ただ緑がいっぱいの風景ではありません。

人が自然と関わりながら暮らしていた時代の、田んぼと林の組み合わせだったのです。

糀谷八幡湿地で守られているのは、「人がいなくなった自然」ではなく、「人が自然と付き合ってきた里山の姿」。

もちろん、当時の生態系が完全に復元されたとまでは言えません。復元前後の動植物の数や水質が、どの程度変化したのかを示す長期比較データは、今回確認した資料だけでは分かりません。

それでも、放棄された田んぼを復田し、周囲の雑木林まで管理している事実は、市の資料にはっきり残っています。

しかも、この再生は行政だけが進めた大規模な造成事業ではありません。

中心になったのは、地元の有志です。

湿地の復元というと、大きな重機を使った土木工事を想像しがちですが、ここで長く続いているのは、田んぼを耕し、草木を管理する地道な活動なのです。

では、そんな人の手入れと、夏のホタルにはどんな関係があるのでしょうか。

ホタルが舞うのは、自然を放置しなかったから?

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糀谷八幡湿地を象徴する生きものの一つが、ホタルです。

隣接する糀谷八幡宮の公式サイトでは、夏に八幡湿地でホタルが見られることが紹介されています。[3]

神社のオリジナル御朱印帳にも、ホタルが棲む湿地の景色が取り入れられています。

まさかの、御朱印帳にまでホタル。

この小さな光が、地域の風景を象徴する存在になっていることが分かります。

ホタルに必要なのは、水だけではない

ホタルと聞くと、きれいな水を思い浮かべます。

もちろん水辺の環境は重要ですが、それだけでは十分ではありません。

例えば、日本でよく知られるゲンジボタルやヘイケボタルには、水中で生活する幼虫の時期があります。

幼虫の餌となる小さな生物がいて、水辺の植物や土壌など、成長段階に応じた環境がそろう必要があります。

成虫が活動する時期には、明るすぎない夜の環境も大切です。

つまり、ホタルが暮らすには、単に池を一つ造ればよいというものではありません。

水、水辺の土や草、周囲の環境。

それらがつながって、初めて生きものの生活場所になります。

里山では「手を入れること」が自然を守る場合もある

ここで、最初の疑問に戻りましょう。

自然を守るなら、人は何もしない方がいいのでしょうか。

手つかずの自然を守ることが大切な場所もあります。

一方、長年の農作業や草刈りによって維持されてきた里山では、人の管理がなくなることで環境の姿が変わることもあります。

例えば、草刈りされていた場所に背の高い植物が広がったり、水路の状態が変わったりすれば、そこに暮らす生きものの条件も変化します。

だからこそ、田んぼや雑木林を適切に管理することには、生態系を維持する意味があるのです。

糀谷八幡湿地保存会が取り組んでいる復田と雑木林の管理も、そうした里山保全の考え方と重なります。

ただし、「保存会の復田だけが原因でホタルが戻った」と断定することはできません。

現地のホタルの種類や過去の個体数、再生前後の変化について、今回確認できた一次資料では十分な比較ができないためです。

確かに分かるのは、市民が復元・管理する湿地があり、その周辺でホタルが見られるということ。

この二つを重ねると、自然を守る方法は一つではないと気付かされます。

なぜ今も、小学生が泥だらけになって田植えをする?

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湿地を守る活動には、もう一つ面白い特徴があります。

それは、子どもたちの存在です。

糀谷八幡湿地では、所沢市立三ケ島小学校の児童が田植えや稲刈りの体験を行っています。[1]

2026年5月18日に所沢市が発表した資料でも、同校の5年生が毎年、保存会主催の田植え体験に参加していることが紹介されています。

2026年の田植え体験は5月22日に予定されていました。[4]

昔の農業を展示しているだけではなく、実際に田植えをする学習の場として使われているのです。

教科書では分からない「田んぼの深さ」

所沢市が公開した田植え体験の紹介には、印象的な場面があります。

水深の深い田んぼを児童が移動できるよう、保存会の会員が板を動かしている写真です。[5]

田植え体験というと、苗を持って一列に並び、田んぼへ植えていく姿を想像します。

でも、現実の田んぼはそんなに単純ではありません。

足元がぬかるみ、水の深さも場所によって違う。

苗を植える以前に、移動することさえ簡単ではないのです。

教科書なら数行で終わる田植えも、実際にやってみれば全身を使った学習になります。

そして、子どもたちに作業を教えるのは、湿地を守ってきた地域の人たちです。

ここには、単なる農業体験以上のつながりがあります。

湿地を管理してきた人から、次の世代へ、土地の使い方や農業への理解が伝わっていく。

自然を保存するだけでなく、自然と付き合う方法そのものを伝える場所にもなっているのです。

実は所沢市が評価したのも「風景」だけではなかった

ここまで見てくると、糀谷八幡湿地の価値は、ホタルや田んぼの景色だけではなさそうです。

そのことを裏付ける、もう一つの手掛かりがあります。

所沢市は、糀谷八幡湿地を「とことこ景観資源」142番として紹介しています。

さらに、糀谷八幡湿地と三ケ島湿地での保全活動は、平成28年度(2016年度)の「とことこ景観賞」に取り上げられています。[1][2]

ポイントは、評価対象が単なる「きれいな自然」だけではないことです。

市の紹介では、復田や湿地の管理、雑木林の維持、児童の農業体験といった活動が詳しく説明されています。

つまり、その風景を残している人々の活動も、評価されているのです。

近くには、もう一つの市民が守る湿地がある

市の資料で糀谷八幡湿地と一緒に紹介されているのが、「三ケ島湿地」です。

こちらは早稲田大学所沢キャンパス内にあり、学生を中心に市民と協力して保全活動が続けられています。

かつて「比良下田んぼ」と呼ばれていた場所です。[1]

糀谷八幡湿地は地元有志の保存会が中心。三ケ島湿地は学生と市民が中心。

取り組む人々は異なりますが、共通するのは、湿地を守る活動に地域の人間が関わっていることです。

狭山丘陵の自然は、木々が残っているだけでは語れません。

その一角には、農業や保全活動を続ける人々によって、維持されている風景があるのです。

糀谷八幡湿地へ行くなら知っておきたいこと

糀谷八幡湿地は、所沢市糀谷にあります。

最寄りのバス停は西武バスの「糀谷」。所沢市の案内では、バス停から徒歩約8分です。[5]

名称
糀谷八幡湿地(こうじやはちまんしっち)
所在地
埼玉県所沢市糀谷22番地から40番地付近
エリア
狭山丘陵・さいたま緑の森博物館区域
アクセス
西武バス「糀谷」バス停から徒歩約8分
鉄道利用
西武池袋線・小手指駅方面から路線バスを利用。乗車便・運行時間は西武バスで要確認
見どころ
谷戸の水田、湿地、周囲の雑木林、季節の生きもの
ホタル
夏に見られることが神社公式情報で紹介されています。発生時期・観察可否はその年の状況によります
入場・予約
通常の景観見学に関する料金・予約制度は、確認した市の資料では明示されていません。公開範囲・現地表示に従ってください
駐車場
湿地専用の一般来訪者向け駐車場の有無は確認できません。隣接する神社の駐車場を湿地見学用に利用できるとは限りません

糀谷八幡湿地の周辺には、糀谷八幡宮があります。

神社の所在地は所沢市糀谷78。公式サイトでは、ホタルが棲む八幡湿地の風景をモチーフとした御朱印帳も紹介されています。[3]

湿地と神社は近接していますが、境内の参拝時間や駐車場の利用条件と、湿地の見学条件は別に考えましょう。

ホタルを見に行く前に

糀谷八幡宮は、夏にホタルが見られることを案内しています。ただし、2026年の具体的な発生数や観察可能日、夜間の立ち入り範囲を示す最新の公式案内は確認できませんでした。

ホタルの姿を見たい場合も、必ず現地の案内と保全上のルールを優先してください。

湿地を訪れる際のお願い

田んぼや湿地の中、立ち入りが認められていない場所には入らず、観察できる範囲から静かに楽しみましょう。

生きものを捕まえたり、植物を採取したりしないこと。ホタル観察時は強いライトやフラッシュの使用を控え、農地や近隣住民への迷惑にならないよう配慮してください。

夜間の観察可否が確認できない場合は、無理に立ち入らないことが大切です。

何もしないのではなく、手をかけることで残された自然

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最初に、こんな疑問がありました。

なぜ、ホタルが舞う自然の湿地で、人が田んぼを耕しているのか。

その答えは、糀谷八幡湿地が、もともと農業と結び付いていた里山の一部だからでした。

谷戸の水を生かして田んぼが営まれ、使われなくなった土地を地域の人々が復元した。

そして今も、保存会が湿地や雑木林を守り、子どもたちが田植えを体験しています。

ここで大切なのは、過去の自然を一枚の写真のように保存しているのではない、ということです。

田植えをし、草木を管理し、次の世代へ経験を伝える。

そうした活動が続くことで、里山の風景も受け継がれていきます。

夏の夜に見られるというホタルの小さな光。

その光の背景には、水辺だけでなく、田んぼを復元し、管理を続けてきた人々の存在があります。

そう知ると、湿地の風景も少し違って見えてきます。

誰も触れなかったから残った自然ではなく、誰かが手をかけ続けてきた自然。

糀谷八幡湿地は、そんな里山の一つなのです。

参考資料・出典

  1. 所沢市「狭山丘陵の三ケ島湿地保全活動、狭山丘陵の糀谷八幡湿地保全活動」
    所沢市公式資料を見る 更新:2024年4月4日/確認:2026年10月20日
  2. 所沢市「とことこ景観資源 142番 糀谷八幡湿地」
    所沢市公式資料を見る 更新:2019年1月28日/確認:2026年10月20日
  3. 糀谷八幡宮「御朱印帳」
    糀谷八幡宮公式サイトを見る ホタルが棲む八幡湿地と御朱印帳の紹介/確認:2026年10月20日
  4. 所沢市「地元文化の理解のために児童が糀谷八幡湿地で田植え体験」
    所沢市2026年5月18日発表資料を見る 発表:2026年5月18日/確認:2026年10月20日
  5. 所沢市「糀谷八幡湿地で田植え体験をしてきたよ!」
    所沢市公式レポートを見る 田植え体験の様子、所在地・アクセス/確認:2026年10月20日
  6. 埼玉県神社庁「八幡神社」
    埼玉県神社庁の神社紹介を見る 神社所在地・周辺のホタルに関する案内/確認:2026年10月20日

※本記事は公開資料をもとに構成しています。現地での独自取材やホタルの個体数調査を実施したものではありません。季節の自然環境、観察条件、交通情報は変化するため、訪問前に最新の案内をご確認ください。

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2026-10-24
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