
ハンバーグ、ドリンクバー、そして赤い看板。
全国でおなじみのファミリーレストラン 「ガスト」。 家族での食事にも、一人でのランチにも、 すっかり身近な存在です。
ところが、そのガストが最初に誕生した場所は、 東京都小平市だったことをご存じでしょうか。
1992年3月。 ガスト1号店となる「小平店」がオープンしました。 これは、運営会社である すかいらーくホールディングスの公式沿革にも 記録されています。 [1]
でも、ちょっと待ってください。
ファミリーレストランの 「すかいらーく」は、それよりずっと前から あったはずです。
それなのに、なぜ1992年に、 わざわざ新しい「ガスト」を始めたのでしょう。
この疑問をたどっていくと、 380円のハンバーグ、 あるお客さんの何気ない行動、 そして1990年代の日本経済へと 話がつながっていきます。
ガストは、バブル崩壊後の不況に対応するために 生まれた、低価格型のファミリーレストランです。 その1号店が、1992年3月に開業した小平店でした。 単に新しい店名を増やしたのではなく、 それまでの外食のあり方を見直す、 すかいらーくグループの大きな挑戦でした。 [2]
すかいらーくがあるのに、なぜ「ガスト」を作った?

まず、時間を少し巻き戻してみましょう。
1970年7月。 すかいらーくグループは東京都府中市に、 ファミリーレストラン 「すかいらーく」の1号店を開業しました。 店名は「国立店」でした。 [1]
家族そろって外食を楽しめる。 家庭ではなかなか作れない料理を、 レストランで味わえる。
生活が豊かになっていった時代に、 ファミリーレストランは 新しい食事の選択肢として広がっていきました。
1980年代には、ジョナサン、藍屋、 バーミヤンなどのブランドも登場。 すかいらーくグループは、 さまざまな食事の楽しみ方を提案する 企業へと成長していきます。 [2]
ところが、1990年代に空気が変わった
1990年代初め、日本では バブル経済が崩壊しました。
景気が悪くなると、 外食に使うお金も見直されます。 それまでと同じ価格、同じ仕組みのままでは、 お客さんに選んでもらうことが 難しくなっていきました。
すかいらーくの公式資料にも、 不況による試練と、新しい成長戦略を 模索していたことが記されています。 [2]
そこで生まれたのが、 「ガスト」という新しいブランドでした。
目指したのは、 もっと気軽に、もっと安く、 家族で外食できるレストラン。
つまりガストは、 すかいらーくの単なる弟分ではなく、 変化する時代への答えとして 登場したのです。
では、その「安さ」は、 どのくらい思い切ったものだったのでしょう。
ハンバーグが380円? 何を変えて安くした?

ここで出てくるのが、 ガストの歴史を語るうえで 見逃せない数字です。
380円。
1992年のガスト誕生について紹介した TBSテレビの番組資料では、 当時、外食のハンバーグが900円前後だったのに対し、 ガストでは380円で提供していたと 説明されています。 [3]
TBSテレビの2021年放送番組の紹介資料に基づく比較。 すべての店舗・商品が同条件だったという意味ではありません。
900円前後と380円。 同じ「外でハンバーグを食べる」という行為でも、 お財布への負担が大きく違います。
家族4人なら、 料理の価格差はさらに大きくなります。
これなら、外食は特別な日のイベントだけでなく、 普段の夕食の選択肢にもなりそうです。
値下げだけでは続かない
とはいえ、単に値段を下げるだけでは、 お店の経営が成り立たなくなります。
そこで重要だったのが、 レストランの運営方法を変えることでした。
当時の外食業界を扱った日本食糧新聞では、 低価格店が広がる過程で、 メニューの絞り込みやサービスの簡素化といった 手法が用いられたことが記されています。 ガストもその流れを生んだ中心的なブランドでした。 [4]
料理の種類や提供方法を見直し、 少ない負担で店舗を運営できるようにする。 それが低価格を支える大切な仕組みでした。
ただ安いだけではなく、 安く提供できるレストランの仕組みそのものを 作ろうとしていた わけです。
そう考えると、ガストで当たり前になっている 「ある設備」の存在も、 少し違って見えてきます。
ドリンクバーは、お客さんの「勝手におかわり」から?

ガストに行くと、 自分で飲み物を注ぐドリンクバーが あります。
コーヒー、紅茶、ジュース。 好きな飲み物を、自分のタイミングで楽しめる。
今では珍しくありませんが、 このサービスにもガストの誕生期が 深く関わっていました。
手掛かりは、店内のコーヒーポット
業務用コーヒーマシンを扱う SEB Professionalの取材記事には、 すかいらーくグループ担当者が語った ドリンクバー誕生のきっかけが 掲載されています。 [5]
それは、スタッフが置いていた コーヒーポットから、 お客さんが自分で飲み物を注いでいたことでした。
その様子を見て、 好きなタイミングで、好きなだけ飲める 仕組みがあれば喜ばれるのではないか。
そんな発想が、ドリンクバーの 開発につながったと紹介されています。
まさかの、おかわりから新サービス。
お客さんの何気ない行動が、 レストランの仕組みを変える ヒントになったのです。
公式の統合報告書では、 1992年9月にガストで ホットドリンクバーを導入 したことが記録されています。 [2]
取材記事では1992年3月のガスト1号店を ドリンクバー導入の始まりとして紹介しています。 一方、企業の公式年表では1992年9月を 「ホットドリンクバー導入」と記載しています。 初期のコーヒーおかわりサービスと、 ホットドリンクバーとしての導入を 区別して読むと、両資料の内容を理解できます。
さらに、呼び出しベルも登場した
変わったのは、飲み物だけではありません。
1993年11月には、 呼び出しベルが導入されたことも すかいらーくの沿革に記されています。 [1]
店員さんが注文を聞きに来るまで待つのではなく、 必要なときに客席から知らせる。
今では普通の仕組みですが、 当時のレストランにとっては、 お客さんとスタッフの関わり方を 見直す試みでもありました。
380円のハンバーグだけが、 ガストの新しさではなかったのです。
小平で始まった実験は、全国に広がった?

小平で生まれた低価格のレストラン。
それは、一時的な新業態で 終わりませんでした。
1993年には、既存の 「すかいらーく」を「ガスト」に 転換する動きが大きく進みます。
外食業界の専門メディア 「フードリンクニュース」は、 1993年に当時のすかいらーく720店のうち、 420店をガストに転換したと紹介しています。 [6]
420店。
1号店を出してからわずかな期間で、 これほど大きく方向転換したのです。
新しい店を少しずつ増やすというより、 会社の主力となるレストランの形を 変えていく決断でした。
そして、もう一度「小平」が登場する
ここで、すかいらーくの年表を さらに先へ進めると、 また小平という地名が登場します。
1998年6月。
ガスト小平回田店で、 宅配サービスの実験が始まりました。 [2]
今なら、レストランの料理を 自宅に届けてもらうことは さほど珍しくありません。
しかし、ガストが宅配サービスを 試していたのは1998年。 スマートフォンの注文アプリが 広く使われるより、ずっと前です。
レストランに来てもらうだけでなく、 レストランの料理を家に届ける。
店の外へ、サービスを広げる挑戦でした。
ただし、1992年の1号店「小平店」と、 1998年の宅配実験店「小平回田店」は、 公式資料上で異なる店名として記録されています。 この2店を同一店舗とみなすことはできません。
それでも、小平市がガストの歴史に 二度登場するのは、なかなか印象的です。
最初は低価格レストラン。 その6年後には宅配サービス。
小平は、ガストの新しい挑戦が 記録された街でもあったのです。
それなら「ガスト」って、そもそも何語?

ここまで来ると、 今度は名前が気になってきます。
そもそも、なぜ「ガスト」なのでしょう。
実はガストという名前には、 スペイン語が関係しています。
すかいらーくホールディングスの ブランド紹介では、 ガストはスペイン語の 「おいしい」「楽しく味わう」という 意味から名付けられたと説明されています。 [7]
同社がブランドの考え方として掲げるのは、 家庭のダイニングルームのように、 気軽で身近なレストランであること。
おいしい料理を、手頃な価格で、 誰もが楽しめる場所にする。
名前と、誕生した理由が ここでつながります。
高級レストランのような特別感ではなく、 日常の中で、気軽に食事を楽しめる場所。
それが1992年のガストが 目指した方向性だったのでしょう。
1号店から1000店へ。何年かかった?
小平で始まったガストは、 その後も全国へ店舗を広げていきました。
2001年12月には、 沖縄県にガスト那覇新都心店が開業。 これにより47都道府県への出店を達成しました。
そして2003年11月、 ガストは1000店舗に到達します。 1000店目は、東京都八王子市の 八王子寺町店でした。 [2]
1992年3月の小平1号店から、 約11年8か月。
たった1店舗で始まったブランドが、 全国1000店舗の規模にまで 成長したことになります。
すかいらーく1号店が 東京都府中市に開業。
ガスト1号店が小平市に開業。
ホットドリンクバーを導入。
呼び出しベルを導入。
小平回田店で宅配サービスの実験開始。
全国47都道府県への出店を達成。
ガスト1000店舗に到達。
出典:すかいらーくホールディングス公式沿革・ 統合報告書2024
こうして振り返ると、 ガストは単なる「安いファミレス」として 大きくなったわけではないことが分かります。
価格を変え、飲み物の提供方法を変え、 注文の仕組みを変え、 さらに宅配にも取り組んでいきました。
その変化の出発点の一つが、 小平にあったのです。
ガスト1号店は、今も小平にある?
ここまで歴史をたどると、 1992年に誕生した1号店を 実際に見てみたくなります。
ただし、ここは注意が必要です。
すかいらーくの公式沿革で確認できるのは、 1992年3月に「小平店」という 1号店が開業したことです。
今回確認した公式の沿革資料だけでは、 当時の店舗の正確な所在地や、 現在営業している店舗との同一性までは 特定できませんでした。
そのため、現在の小平市内にある ガストを、1992年の1号店だと 断定することは避けます。
なお、公式資料に登場する 「小平回田店」は、1998年の宅配実験に 関係する店舗名です。 これも1号店の所在地を証明する 情報とは区別する必要があります。
- ブランド
- ガスト
- 1号店名
- 小平店
- 開業年月
- 1992年3月
- 開業地
- 東京都小平市
- 運営企業
- すかいらーくグループ
- 最寄り駅情報
- 当時の正確な所在地が未確認のため、 最寄り駅や徒歩時間は特定していません。
- 現在の店舗検索
- すかいらーくグループ公式店舗検索
2026年10月30日確認。 本欄は1992年の1号店に関する歴史情報です。 現在の特定店舗の営業を保証するものではありません。
いつものハンバーグに、小平の1992年が隠れていた
ガストのハンバーグ。 ドリンクバー。 客席の呼び出しベル。
どれも今では、特別なものではありません。
でも、その当たり前の背景には、 1990年代の不況と、 レストランをもっと身近にしようとした 企業の試行錯誤がありました。
1992年3月、小平市に誕生したガスト1号店。
その店が始めたのは、 単に新しい料理を出すことではなく、 外食の価格と仕組みを 見直す挑戦だったのです。
次にガストでハンバーグを注文するとき、 380円という昔の価格を 思い出すかもしれません。
そして、いつも何気なく使っている ドリンクバーにも、 一人のお客さんがおかわりをした 小さな出来事が重なって見えてきます。
日本中にあるガストの物語は、 1992年の小平から始まりました。
小平から、もう一つの発祥の物語へ
参考資料・出典
- すかいらーくホールディングス 「歴史・沿革」 発行:株式会社すかいらーくホールディングス ガスト1号店の開業年月、小平店の名称、 企業の沿革を確認。
- すかいらーくグループ統合報告書2024 「価値創造の歩み(沿革)」 発行:株式会社すかいらーくホールディングス バブル崩壊とガスト誕生の関係、 ホットドリンクバー導入、 宅配実験、全国展開の記録。
- TBSテレビ「この差って何ですか?」 2021年2月9日放送内容 発行:TBSテレビ ガスト誕生当時のハンバーグ価格、 低価格化の背景を紹介。
- 日本食糧新聞 「'95外食産業今年の決め手 淘汰の時代 低価格レストラン」 発行:日本食糧新聞 1995年1月2日 当時の低価格レストラン業態の特徴と ガストが外食市場に与えた影響。
- SEB Professional 「株式会社すかいらーくホールディングス」 発行:SEB Professional すかいらーくグループへの取材による ドリンクバー開発のきっかけ。
- フードリンクニュース 「ガストは郊外から駅前に立地を見直し、 女性、シニア、ビジネスマン顧客を広く開拓した。」 発行:フードリンク 1993年の既存店舗のガストへの転換に 関する外食業界の記録。
- すかいらーくホールディングス 「ブランド一覧」 発行:株式会社すかいらーくホールディングス ガストの名称の由来と ブランドが目指す価値を確認。
情報確認日:2026年10月30日
本記事は公開されている企業資料、
業界報道、取材記事に基づいて構成しています。
歴史上の店舗と現在の店舗は区別し、
確認できない所在地や営業状況は推定していません。
記載した当時の価格は現在の販売価格ではありません。