
EKIRIP LOCAL STORY|東久留米駅
東久留米音頭の由来と、みんなで踊る理由をたどる

東久留米駅の西口ロータリーで、子どもたちが同じ音楽に合わせて踊る。そんな光景が、市民まつりにあります。
一人ひとり顔も年齢も違うのに、踊りの動きは同じ。誰かが前に出て目立つというより、同じリズムをみんなで共有する。
考えてみると、少し不思議ではないでしょうか。
ダンスなら自由に踊ってもよさそうです。なぜ、祭りではわざわざ同じ振り付けを繰り返すのでしょう。
その答えを探そうと「東久留米音頭」を調べてみると、意外な名前が出てきます。
サトウハチロー、田中利光、そして三橋美智也。
昭和の歌謡史にも名を残す人たちです。
どうして、東久留米の盆踊りの曲に、これほどの顔ぶれがそろっているのでしょうか。そして、その歌を今も子どもたちが踊っているのはなぜなのでしょう。
東久留米音頭は、東久留米という地域の名前を歌い、みんなで踊りを楽しむための郷土の音頭です。同じ動きを繰り返すことには、踊りに慣れた人も初めての人も、同じ輪やリズムに参加しやすくなる意味があります。
ただし、これは盆踊りの形式から考えられる説明です。「東久留米音頭がその目的で制作された」と断定できる制作当時の資料までは確認できていません。
なぜ、みんなで同じ踊りを踊るの?

まずは、もっとも身近な疑問から。
学校のダンス発表なら、上手に踊ることや、練習の成果を見せることが目的になります。
ところが、盆踊りは少し違います。
盆踊りは、日本各地で受け継がれてきた集団の踊りです。お盆の行事と結びついたものも多く、地域によって音楽も踊り方も異なります。
櫓(やぐら)を中心に輪をつくる形式もあれば、列をつくって踊る形式もあります。すべての盆踊りが同じ形というわけではありません。
それでも、多くの盆踊りに共通するのが、決まった動きを繰り返すという特徴です。
これは、踊りを覚えやすくするうえで、とても都合のよい仕組みです。
前の人の動きを見ながら、次の動作をまねしやすい。
同じ動作が巡ってくるため、少しずつリズムをつかめる。
自分の無理のない動きで、一つの踊りを共有できる。
つまり、振り付けを統一することには、踊る人をそろえるだけでなく、踊りの輪に入るための共通の手掛かりをつくるという意味があります。
音楽が流れ、周囲の人と動きが合い始める。言葉を交わさなくても、同じことを一緒にしている感覚が生まれます。
全員が名ダンサーになる必要はありません。
これは、かなり参加しやすい仕組みです。
ただ、ここで一つ気になります。
全国には「東京音頭」や「炭坑節」など、広く知られた盆踊り曲があります。それなのに、なぜ東久留米には、わざわざ街の名前を付けた音頭があるのでしょうか。
「東久留米音頭」は、誰が作ったの?

調べてみると、意外な顔ぶれにたどり着きます。
地域報道サイト「はなこタイムス」が2025年5月に掲載したご当地ソングの特集では、東久留米音頭の制作者が紹介されています。
- 曲名
- 東久留米音頭
- 作詞
- サトウハチロー
- 作曲
- 田中利光
- 歌唱
- 三橋美智也
- レコード
- キングレコードの「花の咲く街」のシングル盤B面に収録
出典:はなこタイムス「わが街の歌、知ってますか? ご当地ソングいろいろ」[1]
まず、作詞のサトウハチロー。
童謡「ちいさい秋みつけた」や「かわいいかくれんぼ」などでも知られる詩人・作詞家です。
続いて、作曲の田中利光。東久留米市民の歌「花の咲く街」の作曲も担当した音楽家です。
そして、歌っているのが三橋美智也。
「哀愁列車」「古城」などで知られる昭和の大歌手で、キングレコードの公式プロフィールでも、民謡の普及と継承に大きく貢献した人物として紹介されています。[2]
童謡の作詞家、音楽家、昭和歌謡の大スター。
まさか、東久留米の盆踊りからこの3人が登場するとは。
地域の歌というと、地元の誰かが親しみを込めて作った素朴な曲を想像するかもしれません。しかし、東久留米音頭は、プロの作詞・作曲・歌唱によってレコードにもなった楽曲だったのです。
なお、制作年、制作を依頼した団体、当時の詳しい経緯については、今回確認した資料だけでは確定できません。
有名な人たちが関わった理由を「市の依頼だったから」などと決めつけることはできませんが、少なくとも、音楽作品として本格的に制作された曲であることは分かります。
それなら、どうして歌詞に「東久留米」が入っているの?

実は、音頭の面白さはメロディーや踊りだけではありません。
何を歌っているかにも、注目してみたいところです。
東久留米音頭には、街の名前を織り込んだ印象的な掛け声があります。
「ひがしくるめで クルリコシャンシャン」
東久留米音頭の歌詞の一節「東久留米」と「くるり」という音が、楽しいリズムになってつながっています。
街の名前なのに、口にすると踊りの動きまで浮かんできそうです。
ここで大切なのは、地名が単なる場所の説明ではなく、歌のリズムの一部になっていることです。
そもそも、音頭とは日本の民謡や踊りなどで用いられる音楽の形式・呼び名の一つです。歌い手の声や掛け声、一定のリズムに合わせて、参加者が動きやすい特徴を持つ曲も多くあります。
東久留米音頭も、掛け声を楽しみながら踊れるような明るい曲です。
そして、歌詞に地名が入ることで、どこでも通用する盆踊り曲とは少し違う意味が生まれます。
東久留米の人が、東久留米という名前を歌いながら踊る。
歌うたびに、同じ街の名前をみんなで共有するわけです。
これは、郷土の歌というものが持つ大きな特徴の一つでしょう。
もちろん、この歌詞を書いたサトウハチローが、具体的にどのような思いを込めたのかは、本人の言葉などの資料がなければ断定できません。
ただ、地名を何度も声に出して楽しめる構造は、地域の祭りで歌い継ぐうえで相性がよかったと考えられます。
でも、歌詞やメロディーがよくできているだけで、何十年も地域に残るのでしょうか。
そこを考えると、もう一つ大切な存在が見えてきます。
レコードの歌が、どうして地域のお祭りに残ったの?

歌には、作る人と聴く人がいます。
しかし、盆踊りにはもう一つの立場があります。
実際に踊り続ける人たちです。
ここで、東久留米の地域に残る記録が手掛かりになります。
前沢ときわ会の会報には、かつての「滝山・前沢みんなの夏祭り」に関する回想が残されています。
その記録では、東久留米音頭が「炭坑節」や「東京音頭」とともに祭りの会場で流れていたこと、櫓を組んで子どもから大人まで盆踊りを楽しんでいたことが語られています。[3]
ここが重要です。
東久留米音頭は、ただレコードになっただけの曲ではありませんでした。
地域の人が実際に集まり、音楽に合わせて踊る場面で使われてきた曲だったのです。
レコードは、何度でも同じ曲を再生できます。
でも、踊る人がいなければ、盆踊りとしての出番はありません。
地域のお祭りで繰り返し踊られることによって、音楽は単なる作品から、みんなで楽しむ習慣へと変わっていきます。
ここで一つ、面白い逆転があります。
最初は人が歌や踊りを覚えます。ところが、同じ曲を長く踊り続けるうちに、今度はその曲が、お祭りを思い出すきっかけにもなる。
あの曲が聞こえたら、夏祭りを思い出す。
踊りの輪を見たら、昔一緒に踊った人を思い出す。
これは個々の参加者全員の感情を示すものではありませんが、地域の行事に同じ曲が残ることには、そうした記憶の手掛かりを生む働きもあると考えられます。
では、現在の東久留米でも、その習慣は残っているのでしょうか。
今は大人よりも、子どもたちが主役なの?
ここで、時代が一気に現代へ進みます。
2023年11月、東久留米市では第41回「市民みんなのまつり農業祭・商工祭」が開催されました。
市の開催報告には、東久留米駅西口周辺で、子どもたちが中心になって「東久留米音頭」を踊ったことが記されています。[4]
さらに2025年11月の第43回市民みんなのまつりでも、東久留米音頭が披露されました。
市の公式ページには、駅西口ロータリーでの踊りの写真も掲載されています。こちらも、子どもたちが中心となった催しとして紹介されています。[5]
2023年にも、2025年にも。
少なくとも、この2回の市民まつりでは、同じ名前の音頭が実際に踊られていることが確認できます。
これは、なかなか大きな手掛かりです。
昭和の歌手が歌った曲を、令和の子どもたちが踊っているのですから。
しかも、場所は地域の歴史資料館ではありません。東久留米駅の西口ロータリーです。
普段は人や車が行き交う駅前の場所が、祭りの日には踊りの舞台になります。
ここで、最初の疑問が少し違って見えてきます。
みんなが同じ踊りを踊るのは、単に動きをそろえるためだけではないのかもしれません。
以前の世代が踊った曲を、次の世代も踊れるようにする。
決まった音楽と振り付けがあるからこそ、世代が変わっても同じ踊りを再現することができます。
同じ振り付けは、人と人をつなぐだけでなく、違う時代の人たちをつなぐ手掛かりにもなる。
これは東久留米音頭の長い歴史と現在の開催実績から読み取れる、一つの意味です。
実は「令和東久留米音頭」もある?
ここまでの話なら、昭和の曲を今も大切に踊っている、という結論になりそうです。
ところが、調べていると、もう一つの名前が出てきます。
「令和東久留米音頭」です。
2025年の「はなこタイムス」の記事では、東久留米市を中心に活動するシンガーソングライターの横浜旭さんらが、東久留米音頭をリメイクしたことが紹介されています。
さらに、振り付けを伴う動画も公開されているとされています。[1]
古い歌が残っているだけではなく、新しく作り直そうとする動きもあるのです。
これは面白いところです。
伝統という言葉からは、昔と同じものを変えずに守るイメージを持つかもしれません。
しかし、東久留米音頭の場合、昔の曲を踊り継ぐ動きと、その曲を現代向けにリメイクする動きの両方が見られます。
なお、2023年や2025年の市民まつりで踊られた東久留米音頭が、原曲版と令和版のどちらの音源・振り付けだったのかは、市の開催報告だけでは確定できません。
両者を同一のものとして扱うことは避けたいところです。
ただ、どちらの取り組みにも共通するのは、東久留米音頭という曲を、今の人たちが実際に楽しめる形で残そうとする点でしょう。
踊りを受け継ぐことと、新しく作り直すこと。
一見、反対のようでいて、どちらも曲を次の時代へつなぐ方法になっているのです。
2026年の市民まつりでは、どこに注目すると面白い?
では、東久留米音頭について知ったうえで、実際のお祭りを見るとしたら、どこに注目すればよいのでしょうか。
2026年の第44回「市民みんなのまつり農業祭・商工祭」は、11月14日(土)・15日(日)の開催予定です。
東久留米駅西口から市役所方面にかけて、農業祭・商工祭などが行われる予定です。[6]
ただし、2026年の東久留米音頭の実施有無、時間、参加条件、使用する音源については、今回確認した情報では確定していません。
過去と同様に踊りが行われる場合、注目したいポイントは3つあります。
- 踊り手の手と足を見る。
同じ動きがどのように繰り返され、周囲とリズムを合わせているのかに注目。 - 音楽の掛け声を聞く。
地名がどのように歌に組み込まれているかを意識すると、曲の面白さが見えてきます。 - 踊っている人の世代を見る。
昭和の歌が、どのような人たちによって今の祭りで受け継がれているのかを感じられます。
もちろん、見学だけでも十分楽しめます。
踊りの輪に加わりたい場合は、自由参加できる企画かどうか、主催者や当日の係員の案内を確認しましょう。
全員が一緒に踊っているように見えても、実際には事前に練習した出演者による発表という場合もあります。
「みんなで踊る文化」と「誰でも自由に参加できる企画」は、必ずしも同じではありません。
2026年・市民みんなのまつりの基本情報
| イベント名 | 第44回 市民みんなのまつり(農業祭・商工祭) |
|---|---|
| 開催予定日 | 2026年11月14日(土)・15日(日) |
| 主な会場 | 東久留米駅西口から市役所方面の「まろにえ富士見通り」、市民プラザ、市民ひろばなど |
| 最寄駅 | 西武池袋線・東久留米駅 西口 |
| 音頭の実施 | 2026年の出演日時・参加条件は未確認。公式プログラムを要確認 |
| 公式情報 | 東久留米市ホームページ |
※2026年10月23日時点の確認情報をもとに記載。催しの変更・中止・交通規制などは、最新の主催者案内を優先してください。
同じ踊りを繰り返すことには、理由があった
最初に戻ってみましょう。
東久留米駅の西口ロータリーで、同じ曲に合わせて踊る子どもたち。
何も知らずに見れば、街のお祭りで行われている楽しい出し物の一つかもしれません。
けれども、その曲はサトウハチローが詞を書き、田中利光が曲を付け、三橋美智也が歌ったものでした。
かつては地域の夏祭りで流れ、昭和の時代には大人も子どもも櫓を囲んで踊っていたことが記録されています。
そして令和になった今も、市民まつりで子どもたちが中心となって踊る姿が確認できます。
みんなが同じ動きをすることには、一緒に踊りやすくするという意味があります。
でも、その意味は、同じ曲が何世代にもわたって踊られることで、もう少し広がっていきます。
今の子どもたちが動かす手と足。その動きの向こうに、かつてのお祭りで同じ曲を聞いていた人たちの存在が見えてきます。
同じ踊りを繰り返すことは、昔の人とまったく同じになることではありません。
違う時代を生きる人たちが、同じ音楽を使って、一つの時間を楽しむことでもあるのです。
次に東久留米音頭を見かけたら、踊りの上手さだけではなく、繰り返される動きにも目を向けてみてください。
何気ない手の動きが、少し違って見えるかもしれません。
参考資料・出典
情報確認日:2026年10月23日。楽曲の制作者については地域報道資料、歌手の経歴についてはレコード会社、祭りの実施実績については東久留米市の公式報告を中心に確認しています。
-
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