
野菜を売る農業祭と、お店が並ぶ商工祭。
なぜ、二つのお祭りが一緒になっているのでしょう?
東久留米市の秋の恒例行事「市民みんなのまつり」。 正式な案内には、ちょっと不思議な名前が付いています。
「市民みんなのまつり(農業祭・商工祭)」。
農業祭なら、畑で育った野菜や果物が主役。 商工祭なら、お店や会社の商品、サービスが主役です。
どちらも楽しそうですが、ずいぶん違うジャンルです。 一つにまとめる必要はあるのでしょうか。
その理由を探して古い市の広報を調べると、 同じ会場にあるのに、開催回数がまったく違う という面白い手掛かりが見つかりました。
実は、この数字こそが、お祭りの成り立ちを考える入り口だったのです。
同じお祭りなのに、開催回数が3つある?

まずは、時計を2006年まで戻してみましょう。
東久留米市が発行した2006年11月1日号の広報には、 現在につながる「市民みんなのまつり」が紹介されています。
ところが、そこに書かれた数字を比べると、ちょっとした違和感があります。
出典:東久留米市「広報ひがしくるめ」2006年11月1日号。各催しの開催回数として掲載された数字です。 [1]
同じ2006年なのに、27回、30回、35回。
まるで3人が同じ誕生日会に集まりながら、 それぞれ違う年齢を名乗っているような状態です。
もちろん、誤植だと決めつける必要はありません。
ここから読み取れるのは、 市民みんなのまつり、農業祭、商工祭には、それぞれ独自の開催実績があった ということです。
開催回数だけから単純に初開催年を逆算することはできません。 中止や休止があれば、年数と回数は一致しないからです。 ただし、少なくとも2006年時点で、3つの名称が異なる歴史を持っていたことは確認できます。
では、もともと何をするためのお祭りだったのでしょう。
農業祭は野菜を売るだけのお祭りではなかった
農業祭と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは新鮮な野菜の直売です。
でも、2006年の広報を読むと、農業祭にはもう一つ大切な目的が書かれています。
それは、都市農業の姿を知り、都市と農業の関係について理解を深めてもらうことです。 [1]
つまり、ただの野菜販売会ではなかったのです。
畑で何が育っているのか、街の人に見せる
2006年の農業祭には、農産物の品評会、野菜や果物の販売、 花や植木の展示・販売などがありました。
品評会とは、農家が育てた作物を持ち寄り、 品質や出来栄えを審査する催しです。
スーパーで売られている野菜は、 私たちにとってすでに「商品」になった姿です。
けれど品評会では、その手前にある農家の技術や工夫にも目を向けることができます。
一見すると普通の大根や白菜でも、 そこには育てた人の努力が詰まっています。
そして、野菜が船になる
東久留米の農業祭を象徴する企画の一つが「野菜の宝船」です。
2006年の広報には、野菜で作った宝船の展示に加え、 その野菜をチャリティーで配布する企画も記録されています。 [1]
普段は料理されて食卓に並ぶ野菜が、 この日は街の人に見てもらう大きな作品になる。
そして展示が終われば、再び人々の暮らしへ戻っていく。
農業祭は、農作物を通して、生産する人と暮らす人を結び付ける場所 と考えると、その役割が見えてきます。
ただ、街で働いている人は農家だけではありません。
野菜を買う場所があり、食事をする店があり、 暮らしを支える会社もあります。
そこで、もう一つの「商工祭」が登場します。
商工祭は何を見せるお祭りだったのか?
商工祭という言葉は、農業祭より少し想像しにくいかもしれません。
「商」は商業、「工」は工業。 お店や会社、ものづくりなど、地域のさまざまな仕事に関わるお祭りです。
2006年の広報には、商工祭の企画として、 産業展示会、びっくり即売会、飲食模擬店などが紹介されています。 [1]
商工祭は、街の仕事の見本市だった
産業展示会では、普段の事業活動の成果を展示したり、 商品を販売したりします。
「びっくり即売会」は、商店会や事業組合、 地元のお店などによる販売企画です。
さらに、2006年の企画には消防、防犯、交通安全、 資源の再利用を紹介するコーナーもありました。
ここで少し印象が変わります。
商工祭は、単に安く買い物をする催しではなく、 街にどんな仕事や活動があるのかを、市民に知ってもらう場 でもあったのです。
毎日通る道沿いにある会社でも、何を作っているか知らないことがあります。 顔は見たことがあるけれど、入ったことのないお店もあります。
そんな街の仕事が、年に一度、通りに出てくる。
農業祭が畑の仕事を見せるなら、 商工祭は商店や事業者の仕事を見せる。
こう考えると、二つのお祭りは案外よく似ています。
主役となる仕事は違っても、 普段は見えにくい地域の営みを市民に紹介するという点では、 共通しているからです。
そして、この共通点が「一緒に開く意味」を考える重要な手掛かりになります。
それなら、なぜ二つを一緒にするのか?

農業祭と商工祭。
別々に開催しても、それぞれ十分に成り立ちそうです。
しかし一緒にすると、来場者の体験が変わります。
野菜を目当てに来た人が、地元のお店を知る。 買い物に来た人が、東久留米で育った農作物に出会う。
地域の仕事をジャンルごとに切り分けず、 一度に見られるようになるのです。
これは共同開催の構成から読み取れる利点です。 ただし、市が当初からこの効果だけを目的として統合したと断定できる資料は、 今回確認した範囲では見つかっていません。
主催者を見ると、仕組みが分かる
2019年の市の報道発表には、祭りを運営する連絡協議会の構成団体が記されています。
商工業に関わる団体、農業に関わる団体、 地域づくりに取り組む団体、そして市の行政。
この4者が協力して運営する形になっています。
つまり、出店内容だけを寄せ集めたのではなく、 運営する側にも農業と商工業、地域活動を横につなぐ仕組みがあるわけです。
ただし、ここまで分かっても、一つだけ残る疑問があります。
もし農業と商工業が中心なら、 「産業まつり」と呼んでもよかったはずです。
なぜ名前は「市民みんなのまつり」なのでしょう。
「市民みんな」という名前には何が加わった?
この問いを考える手掛かりも、古い広報にあります。
2006年の市民みんなのまつりでは、 農業祭と商工祭のほかに、 学校や地域団体による多彩な催しが企画されていました。
よさこい、阿波踊り、和太鼓、吹奏楽、フラダンス。 おみこしや郷土芸能も登場しています。 [1]
野菜を売る人、お店を出す人だけではなく、 踊る人、演奏する人、発表する人も参加している。
ここで、お祭りの主役が少し広がります。
売る人と買う人だけでは終わらない
産業の展示や販売なら、基本的には出す人と見る人、 売る人と買う人が中心です。
ところが、学校の発表や郷土芸能、 地域団体のパフォーマンスが加われば、 お祭りに参加する理由が増えていきます。
家族の発表を見に来る人。 地元の踊りを披露する人。 友人が出演するステージを応援する人。
そうした人々も、同じ会場を共有します。
農業と商工業の祭りが、市民の文化や活動を発表する場所にもなっている。
「市民みんな」という名前は、こうした現在の催しの姿によく合っています。
もちろん、名称が正式にいつ、どのような議論で決まったのかについては、 今回確認した資料だけでは断定できません。
ただ、2006年の時点で、 農業や商工業の枠を超えて市民が参加する行事になっていたことは確かです。
名前はとてもシンプルですが、 その中身はなかなか盛りだくさんです。
40年以上続く間に、お祭りはどう変わった?

ここで、現在までの流れを整理してみましょう。
変化を追うと、昔から残っているものと、 新しく加わってきたものが見えてきます。
市の広報では農業祭が第28回として紹介される。 この時点で、都市農業を紹介する催しとして長い開催実績があったことが分かります。 [4]
市民みんなのまつり第27回、農業祭第30回、 商工祭第35回の記録が残る。 それぞれ異なる回数を持ちながら、共同の祭りとして開催されていました。 [1]
第40回市民みんなのまつりを開催。 市の発表では、約500人規模で東久留米音頭を踊る企画が案内されました。 [2]
4年ぶりに第41回を開催。 東久留米音頭やお囃子、ファイアーマンパレードなど、 多彩な催しが戻りました。 [5]
第43回を開催。 農産物の展示や販売、野菜の宝船に加え、 ダンスや伝統芸能、クルメイザーショーなどが実施されました。 [6]
第44回市民みんなのまつりが11月14日・15日に開催予定。 東久留米駅西口から市役所方面が会場となります。 [7]
この年表から分かるのは、 単に毎年同じ催しを繰り返しているわけではないことです。
農産物や商工業の展示・販売という柱を保ちながら、 地域のステージやパレードなども一緒に楽しめる行事になっています。
また、2020年から2022年にかけての開催中断を経て、 2023年に復活したことも、大きな節目です。
第41回という数字は、2023年の暦だけを見れば少なく感じるかもしれません。 けれど、開催できなかった期間を挟んで続いてきた歴史も、 この回数には含まれているのです。
なぜ駅前の道路そのものを会場にするのか?
もう一つ、この祭りには特徴があります。
それは、普段は車や人が行き交う道路が、 お祭りの会場になることです。
東久留米駅西口から市役所へ向かう 「まろにえ富士見通り」。
市の案内では、この通りに商工業者の屋台が並び、 農産物の販売や品評会、 小中学生などによる催しが行われると紹介されています。 [8]
この配置は、農業祭と商工祭を一緒に開く形にもよく合っています。
建物の中の展示室だけではなく、 通りを歩きながら複数の分野に触れられるからです。
野菜を見た後に飲食店の模擬店へ。 その先で子どもたちの発表を見て、 帰りに地元のお店を知る。
これは実際の来場順序を決めたものではなく、 会場の構成から考えられる楽しみ方です。
目的が違う人たちも、同じ通りを歩く。
「市民みんなのまつり」という名前は、屋台や展示が並ぶ駅前の通りそのものにも表れている といえそうです。
2026年は、何に注目するともっと楽しめる?

ここまで歴史をたどると、2026年の祭りにも、 いつもとは違う楽しみ方が見えてきます。
農業祭では「誰が育てたか」を考える
野菜の販売や品評会が行われる場合は、 価格や見た目だけでなく、 東久留米でどのような農作物が育てられているのかにも注目してみましょう。
野菜の宝船が展示される場合は、 どんな種類の野菜が使われているかを見比べるのも楽しそうです。
商工祭では「いつもの街の仕事」を探す
商工業者の出店があれば、 普段見かけるお店や知らなかった事業者を探してみるのもおすすめです。
ただ買うだけでなく、 どんな仕事をしている事業者なのかを知ると、 帰り道の街の見え方も少し変わるかもしれません。
ステージでは「誰が参加しているか」を見る
過去には東久留米音頭、お囃子、学校や地域団体による発表などが行われてきました。
そこで舞台に立つ人たちも、 このお祭りを作る大切な参加者です。
なお、ここで紹介した催しは過去開催の実績です。 2026年の個別プログラムや実施時間は、 最新の公式案内で確認してください。
- 開催日
- 2026年11月14日(土)・15日(日)
- 名称
- 第44回 東久留米市市民みんなのまつり(農業祭・商工祭)
- 主な会場
- 東久留米駅西口〜まろにえ富士見通り、市役所周辺
- 最寄駅
- 西武池袋線「東久留米駅」西口
- 料金
- 2026年の個別企画・出店価格は最新案内を確認
- 予約
- 一般来場の予約条件については最新案内を確認
最終情報確認日:2026年10月23日。開催内容、交通規制、時間などは変更される場合があります。
農業祭と商工祭。二つの名前が残っている意味

最初に見たときは、少し不思議だった 「市民みんなのまつり(農業祭・商工祭)」という長い名前。
けれど、2006年の広報に記された3つの開催回数を知ると、 その見え方が変わってきます。
農業祭には農業祭の歴史があり、 商工祭には商工祭の歴史がある。
そして、それらを含む市民みんなのまつりにも、 独自の開催回数が積み重なってきました。
それぞれが持っていた役割をなくすのではなく、 一つの会場で一緒に見られるようにしている。
だからこのお祭りは、 野菜を買うだけでも、お店を巡るだけでも終わりません。
畑で育てる人、店で働く人、地域で活動する人、 ステージで発表する人。
そうした人々の営みが、同じ通りに並びます。
次にまろにえ富士見通りを歩くとき、 農業祭と商工祭の境目を探してみるのも面白いかもしれません。
一つの通りにいくつもの歴史が集まっている。 それが、このお祭りの面白さなのです。
お祭りを、もう少し深く楽しむ
歴史を知った後は、実際の催しを見てみましょう。 同じ秋に開かれる別の街の農業まつりと比べるのも、新しい発見につながります。
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