
コーヒーを飲みに行ったはずなのに、気がつけば図鑑を開いている。
しかも、図鑑の数は数冊どころではありません。壁いっぱいの本棚に、動物、地理、科学、歴史など、さまざまな世界が並んでいます。
そんな少し変わったお店が、西武池袋線・桜台駅のすぐそばにあります。
名前は「図鑑カフェ fumikura(フミクラ)」。
2026年10月24日放送のフジテレビ『有吉くんの正直さんぽ』でも紹介されました。番組は「個性が光る!桜台・江古田をお散歩」という回。図鑑カフェは、番組の見どころの一つとして取り上げられています。[1]
でも、ちょっと不思議です。
本を読むだけなら図書館があります。喫茶店なら、もっと普通の本を置いてもよさそうです。
それなのに、どうして「大人の図鑑カフェ」なのでしょう。
その答えをたどると、店主が以前営んでいた、まったく別のお店に行き着きます。
なんと、出発点にはお弁当屋さんがありました。
なぜ普通の本ではなく「図鑑」なの?

図鑑と聞くと、小学生のころに読んだ昆虫図鑑や恐竜図鑑を思い出す人もいるかもしれません。
もちろん、大人になってから図鑑を開いても面白いものです。でも、わざわざそれを主役にしたカフェを開く理由は何でしょうか。
店主の井守正暁(いもり・まさあき)さんの経歴を調べると、思いがけない事情が見えてきます。
井守さんは地理学科の出身で、神保町の書店「書泉」で働いた経験があります。もともと本に親しんできた人ですが、その後、家業のお弁当店を引き継ぎました。[2]
ここが最初の手掛かりです。
2025年の日刊ゲンダイの取材で、井守さんは弁当店を営んでいたころ、疲れた夜に図鑑を眺めていたことを語っています。
理由は、図鑑ならどのページから開いても楽しめるから。[2]
なるほど。長い小説だと、前の展開を思い出したり、文章を読み続けたりする必要があります。
一方、図鑑なら気になる写真を一枚見るだけでも十分。疲れていても、その瞬間から楽しめます。
つまり、図鑑は勉強のためだけの本ではなかったのです。
井守さん自身にとって、一日の終わりに頭を休めるための本でもありました。
2019年のインタビューでも、店のコンセプトについて、疲れている人が癒やされる場所にしたいと説明しています。[3]
知識を増やす場所を作ったつもりが、実は疲れた人を休ませる場所でもある。
図鑑カフェという名前から受ける印象が、少し変わってきました。
もとはお弁当屋さん。それがなぜカフェになった?

ここで、もう一つ気になることがあります。
本好きの店主が図鑑を集めていたことは分かりました。けれど、どうしてそれを商売にしようと思ったのでしょう。
fumikuraが開店したのは2016年1月。
それ以前、井守さんは家業のお弁当店を営んでいました。2019年の開業インタビューには、店舗を改装してブックカフェを開いたことが記録されています。[3]
お弁当から図鑑へ。
メニューの一部を変えるどころではありません。お店の主役が、食べ物から本へと大きく変わったわけです。
ただ、実際には本好きという背景だけでなく、長年抱いていた「自分の本を人と共有する場所」への思いもありました。
若いころ、井守さんの家には、本を読んだりお酒を飲んだりして過ごす友人が集まっていたそうです。[2]
ここで、お店の名前が意味を持ち始めます。
「fumikura」って、そもそも何語?
フミクラ。
カタカナで聞くと外国語のようにも感じますが、実は日本語に由来する名前です。
2025年の取材によると、「fumikura」は「文庫」を意味する大和言葉なのだそうです。[2]
文庫といえば小さな本を思い浮かべますが、ここでは本を集め、身近に置く場所という意味が重なります。
若いころ、自宅の本を友人たちと楽しんでいた井守さん。
その経験を踏まえると、店名に込められた方向性が見えてきます。
本を静かに保管するだけではなく、誰かが気軽に本を開き、思い思いに過ごす場所。
「図鑑喫茶」という説明的な名前ではなく「fumikura」という言葉を選んだことにも、そんな店のあり方が重なって見えます。
そして、ここからがさらに面白いところです。
図書館のように本を読めるなら、ここにある本は借りられるのでしょうか。
本を読むだけじゃない。気に入った図鑑は買える?

答えは、購入もできます。
fumikuraでは、図鑑や写真集を中心とした本を自由に眺めることができ、気に入った本は購入することも可能です。練馬区や西武鉄道の紹介でも確認できます。[4][5]
喫茶店で気になる本に出会い、そのまま自宅へ持ち帰れる。
本屋とカフェの、ちょうど中間のような仕組みです。
しかも、本棚の並び方に理由がある
本の数が多いだけなら、大きな書店でも同じです。
けれどfumikuraには、少し変わった本の選び方と並べ方があります。
2025年の取材では、井守さんが古書店で本を集め、自分で内容を確認してから店の棚に並べていることが紹介されています。
さらに、目立つように表紙を見せた本から、左右に置かれた別の本へと興味が広がるよう工夫されているそうです。[2]
例えば、世界の路地裏を紹介する本の近くに、世界の言語や文化に関する本が置かれているという具合です。
街並みの写真を眺めていたら、その国の言葉が気になる。そして、そこから歴史や暮らしにも興味が移る。
最初は、ただの寄り道だったのに。
本棚の中でも、寄り道が始まってしまうわけです。
だから、ここでの図鑑は単なる資料ではありません。
一冊が、次の一冊への入口になるように設計された本棚なのです。
西武鉄道が2026年3月時点の情報として公開した紹介では、店内の本は約2,500冊。一方、練馬区が2026年7月に更新した店舗紹介には約1,700冊とあります。[4][5]
時点や集計対象による違いなのかは確認できません。そのため、現在の正確な冊数は断定しませんが、いずれの資料からも、相当な数の本を楽しめるカフェであることが分かります。
図鑑の店なのに、コーヒーや料理にも意外な工夫がある?

さて、図鑑ばかりに気を取られていましたが、ここはカフェです。
コーヒーや食事、甘いものも楽しめます。
西武鉄道の2026年3月の紹介では、イタリア風のアイスコーヒー「シェケラート」や、梅ジュースなどを使う日替わりゼリーが紹介されています。掲載時点の価格はシェケラート900円、日替わりゼリー600円です。[4]
このほか、過去の取材ではオレンジ珈琲や自家製の果実酒なども紹介されてきました。[6]
なかでも気になるのが、オレンジ珈琲です。
名前だけ聞くと、コーヒーにオレンジジュースを入れるのでしょうか。
実際には、オレンジの皮から作った自家製ピールを生かしたコーヒーです。
しかも、このオレンジの皮には、味づくり以外の意味もありました。
捨てるはずだった皮が、コーヒーの香りになる
練馬区は、fumikuraを食品ロス削減に取り組む「おいしく完食協力店」として紹介しています。
その具体例が、オレンジを丸ごと利用する工夫です。
果肉などはかき氷に、皮は自家製オレンジピールにして珈琲へ。
さらに、果実酒やビネガードリンクを作るときに使った果実を、アイスクリームや羊羹に活用する取り組みも紹介されています。[5]
オレンジの皮が、コーヒーになる。
図鑑に囲まれたお店らしい、ちょっと観察したくなる話です。
もちろん、図鑑の考え方が食品ロス対策の直接の原因だと確認できたわけではありません。
ただ、見過ごしがちなものに目を向けるという点では、本棚の面白さと料理の工夫が、どこか似ているようにも感じられます。
練馬の大根を使った一杯も
練馬区の食育応援店の紹介には、秋から春にかけて提供する「ねりま雪中椀」も掲載されています。
練馬区産の大根を使った、大根おろしの出汁茶漬けです。[7]
図鑑を眺めながら、地元の食材を使った料理を味わう。
本に書かれている世界だけではなく、食べ物からも新しい発見がありそうです。
※料理・ドリンクの価格、販売状況、季節メニューは変更される場合があります。掲載した価格は2026年3月時点の西武鉄道の案内に基づきます。
本棚を見上げたら、今度は天井がプラネタリウム?

図鑑の世界は、紙の中だけでは終わりません。
練馬区の店舗紹介には、fumikuraで夕方18時からの天井投影や、月1回のミニプラネタリウムを実施するという案内があります。[5]
本棚には星や宇宙についての知識が並び、その先には映像で楽しむ時間も用意されている。
図鑑から天井へ。
視線の移動距離は短いのに、想像の行き先は宇宙です。
ほかにも、テーマごとに図鑑を集める特集フェアなどが過去の取材や練馬区の紹介で確認できます。
ただ本を並べて待っているのではなく、別の切り口から興味を広げる仕掛けがあるということです。
こう考えると、fumikuraは「図鑑が置いてあるカフェ」というより、図鑑をきっかけに、いろいろな世界を覗ける場所といった方が近いのかもしれません。
※天井投影やプラネタリウム、特集フェアの実施日・内容は変更される可能性があります。参加を目的に訪れる場合は、店舗の最新案内をご確認ください。
図鑑カフェfumikuraの場所・営業時間・アクセス
fumikuraは、西武池袋線・桜台駅の南口から徒歩約1分。千川通り沿いにあります。
駅から近く、散歩の途中に立ち寄りやすい立地です。
フジテレビの2026年10月24日放送回の公式案内と、練馬区の店舗情報をもとに基本情報を整理しました。[1][5]
- 店舗名
- 図鑑カフェ fumikura(フミクラ)
- 住所
- 東京都練馬区桜台1-4-7 仙川ビル1階
- 最寄り駅
- 西武池袋線「桜台駅」南口から徒歩約1分
- 営業時間
- 11:00〜22:00
ラストオーダー21:00 - 定休日
- 火曜日
- 電話番号
- 03-6914-5886
- 主な特徴
- 図鑑・写真集の閲覧、書籍販売、カフェ、食事、各種企画
- 店舗SNS
- 公式Instagramで最新案内を確認
営業時間・定休日は2026年10月24日放送のフジテレビ公式掲載情報を優先しています。西武鉄道の2026年3月の紹介には「無休」との記載もありますが、練馬区の案内とフジテレビの放送情報はいずれも「火曜日定休」です。臨時休業を含む最新情報は店舗へご確認ください。
図鑑は、何かを調べるためだけの本じゃなかった
最初に戻ってみましょう。
桜台にある、壁いっぱいに図鑑が並んだカフェ。
最初は少し変わったコンセプトのお店に見えました。
でも、その背景をたどると、別の姿が見えてきます。
疲れた夜に図鑑を開いていた店主。以前はお弁当屋さんだった場所。友人たちと本を楽しんだ記憶。そして、一冊から別の一冊へ興味がつながるように並べられた本棚。
それぞれの手掛かりを重ねると、図鑑を置く理由が分かってきます。
図鑑は、難しいことを勉強しなければならない本ではなく、好きなページを開くだけで楽しめる本でもある。
そして、その楽しみ方を大人にも思い出してもらえるようにしたのが、fumikuraなのかもしれません。
コーヒーを飲みながら、何気なく一冊を開く。
そこから思いがけない世界へ興味が広がってもいいし、ただ写真を眺めて一息つくだけでもいい。
「図鑑カフェ」という少し変わった名前。
調べてみると、その中身は思っていたよりずっと自由な場所でした。
次に桜台駅で降りたときは、いつもの街の中に、そんな小さな「知識の寄り道」があることを思い出せそうです。
桜台から、もう一つの寄り道へ
本棚から興味が広がるように、桜台の街にも、ひとつ知ると次が気になる場所があります。
図鑑カフェをきっかけに、この周辺の不思議をもう少したどってみませんか。
参考資料・出典
-
フジテレビ|ぶらぶらサタデー『有吉くんの正直さんぽ』2026年10月24日放送
発行:フジテレビ
桜台・江古田特集の放送日、fumikuraの紹介、住所、電話番号、営業時間、定休日を確認。
https://www.fujitv.co.jp/burabura/_basic/backnumber/index-746.html
確認日:2026年10月29日 -
日刊ゲンダイDIGITAL|図鑑カフェfumikura(桜台)店主は筋金入りの図鑑愛好者で地理学科出身
発行:日刊ゲンダイ
2025年8月30日公開。店主の経歴、弁当店時代の体験、店名の意味、本の選書・陳列方法、蔵書と購入について確認。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/376877
確認日:2026年10月29日 -
個人カフェ開業.com|「大人の図鑑カフェ fumikura」のカフェのコツ
発行:個人カフェ開業.com
2019年11月1日公開。2016年の開業、弁当店からの転換、店主の考えるカフェの役割、図鑑販売についてのインタビューを確認。
https://kaigyou.kojincafe.com/magazine/cafeshint/fumikura/
確認日:2026年10月29日 -
西武鉄道|西武ニュース fillute「図鑑カフェ Fumikura」
発行:西武鉄道
2026年3月時点の掲載情報。蔵書数、書籍購入、駅からのアクセス、シェケラートと日替わりゼリーの価格を確認。
https://www.seiburailway.jp/railways/fillute/sweets/202604-03/
確認日:2026年10月29日 -
練馬区|図鑑カフェfumikura・おいしく完食協力店
発行:練馬区
2026年7月28日更新。蔵書、飲食、食品ロス削減の取り組み、天井投影、ミニプラネタリウム、店舗情報を確認。
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/gomi/oishikukanshoku/ichiran/20210906.html
確認日:2026年10月29日 -
GRUTTO PLUS|桜台「fumikura」図鑑を眺めながらコーヒーを味わう贅沢な時間
発行:GRUTTO PLUS
2018年5月17日の取材内容。図鑑の選書基準、オレンジ珈琲、果実酒、店内の席やイベントに関する過去の情報を確認。
https://grutto-plus.com/area/shakujii_nishitokyo/214/
確認日:2026年10月29日 -
練馬区|図鑑カフェ fumikura・ねりまの食育応援店
発行:練馬区
2025年9月3日更新。練馬区産大根を使った「ねりま雪中椀」、ランチメニュー、店舗情報などを確認。
https://www.city.nerima.tokyo.jp/hokenfukushi/hoken/shokuiku/shokuikuouenten/zukancafefumikura.html
確認日:2026年10月29日