EKIRIP LOCAL STORY|清瀬駅・清瀬市
新宿高島屋のジェラートに、清瀬市役所のはちみつが使われていた。

そう聞くと、少し不思議ではありませんか。
百貨店のスイーツと市役所。普段はあまり交わらなそうな組み合わせです。
しかも、このはちみつは清瀬市の農家から仕入れたものではありません。 市役所の屋上で飼育しているミツバチが集めたものなのです。
役所の仕事といえば、住民票、税金、各種の手続き。 まさか屋上で、スイーツの材料まで生産しているとは。
実際に2020年、清瀬市と新宿高島屋のジェラートブランドによる商品が誕生しました。 名前は「はちみつチーズジェラート」。 新宿高島屋だけでなく、清瀬市と東久留米市のコンビニにも並んだのです。[1]
では、なぜ清瀬市役所にはミツバチがいるのでしょう。 そして、どうして百貨店のジェラートへとつながったのでしょうか。
このジェラートは2020年の清瀬市制50周年を記念する商品でした。 ただし、話の始まりはその6年前。市役所の屋上で始まった、小さな養蜂事業にさかのぼります。
なぜ市役所の屋上に、ミツバチがいるの?

話を2014年3月まで戻しましょう。
このとき清瀬市が始めたのが「東京清瀬市みつばちプロジェクト」です。 市役所の屋上に巣箱を置き、市の職員が養蜂に取り組みました。
清瀬市の説明によると、これは東京都で初めての自治体職員による養蜂事業でした。[2]
それにしても、なぜ市役所がミツバチを育てる必要があったのでしょう。
目的は、単純にはちみつを売ることだけではありませんでした。
清瀬市が掲げたのは、地域の活性化、花のあるまちづくり、そしてはちみつの活用です。 ミツバチを通じて、街の自然と産業をつなげようとしたのです。
ミツバチは花の蜜を集めます。 同時に、花から花へ移動することで花粉を運び、植物の受粉にも関わります。
つまり、ミツバチを育てることは、はちみつを採るだけではなく、 花や農業のある環境にも目を向けるきっかけになります。
この計画の舞台が、清瀬だったことにも意味があります。
清瀬には農地や雑木林などの緑が残っています。 市の資料では、この自然環境と農業がミツバチの生育を支えたと説明されています。
2014年から2021年までの8年間で、採取されたはちみつは年平均約76kg。 小さな巣箱から始まった事業は、継続的に収穫できる取り組みへと育っていきました。[2]
屋上が急に養蜂場になった理由は、清瀬の自然を活かした街づくりだったのです。
でも、ここで別の疑問が出てきます。
市役所で採れたはちみつを、いったい誰が食べていたのでしょうか。
採れたはちみつは、どこへ行った?
市役所の屋上で採れたはちみつには、ちゃんと名前が付けられました。
「Kiyohachi(きよはち)」。
清瀬の「きよ」と、はちみつの「はち」。 名前も街に根ざしています。
そして、このはちみつの行き先が、なかなか幅広いのです。
清瀬市の公立小中学校の給食、料理教室、ふるさと納税の返礼品。 地域の中で食べてもらい、地域の外にも清瀬を知ってもらう。 そんな役割を担うようになりました。[2]
そして2018年、次の展開が生まれます。
清瀬市は市内の事業者に「きよはち」を活用した新商品を募集しました。 その結果、2社から提案があり、2種類の商品が誕生したのです。
はちみつが、マドレーヌと化粧品に
一つは「ひまわり畑マドレーヌ」。 もう一つは「きよはちモイスチャーハニーゲル」。
お菓子だけでなく、保湿に関わる製品にも広がりました。 はちみつの使い道は、トーストに塗るだけではなかったのです。
市の資料では、自治体が生産したはちみつを地元事業者が使ったコラボ商品開発について、 全国初の取り組みとして紹介しています。[2]
こうして「きよはち」は、ただの市役所産はちみつから、街の商品づくりに使える材料へと変わっていきました。
ここまで来ると、百貨店とのコラボも少し見えてきます。
とはいえ、新宿高島屋です。 清瀬の市役所と、どこで接点が生まれたのでしょうか。
高島屋との接点は、2020年3月に生まれた

決定的な動きがあったのは、2020年3月です。
清瀬市の発表によると、高島屋のプライベートブランド「ジェラテリア・パンチェーラ」から、はちみつの活用について引き合いがありました。[1]
それをきっかけに商品開発が進み、清瀬市役所産はちみつを使ったジェラートが誕生します。
つまり、清瀬市が突然ジェラート屋さんを始めたわけではありません。 地域で育てた素材に、ジェラートブランドの商品開発の技術が加わったということです。
2020年は、清瀬市にとって市制施行50周年の節目。 この商品は、その記念商品にもなりました。
市役所屋上で養蜂事業がスタート。
地元事業者とマドレーヌ、保湿製品を開発。
高島屋のジェラートブランドから引き合いがあり、商品化へ。
新宿高島屋本館で「はちみつチーズジェラート」の販売開始。
清瀬市・東久留米市のセブン-イレブン15店舗でも数量限定販売開始。
6年かけて街の中で育ったはちみつが、市制50周年の年に新宿の百貨店へ。
この経緯を知ると、単なる話題づくりの商品という印象が少し変わってきます。
ただ、もう一つ気になります。
はちみつのジェラートなら想像できます。 でも、どうしてそこに「チーズ」を加えたのでしょう。
なぜ「はちみつ×チーズ」だったの?
はちみつとチーズ。
甘いものと、コクのあるもの。 食卓では見かける組み合わせですが、ジェラートの材料になると少し意外です。
実はこのチーズ、何でもよかったわけではありません。
商品を紹介しているジェラートメーカー「Gelatle TOKYO(ジェラートル トウキョウ)」の資料によると、試作を重ねた結果、チェダーチーズが選ばれました。[3]
理由は、清瀬のはちみつとの相性です。
チーズのコクが、はちみつの風味を引き立てる。 はちみつの甘さだけで勝負するのではなく、組み合わせによって味を作ろうとしたのです。
しかも、最後にはちみつを手作業でのせる
さらに製法にも工夫がありました。
ジェラートをカップに詰めた後、表面にはちみつを手作業でのせる方法が採用されています。
ベースに混ぜ込むだけでなく、表面にもはちみつ。
「市役所のはちみつを使いました」という話題性だけではなく、味や製法についても検討された商品だったことが分かります。
なお、メーカーが公開している商品情報では、内容量120ml、種類別はアイスミルク、原材料に含まれるアレルギー物質は乳成分・卵となっています。 これは公開されている商品仕様であり、購入時は現物表示を確認してください。[3]
では、完成したジェラートは高島屋だけで売られたのでしょうか。
ここで再び、意外な展開が待っていました。
高島屋の商品なのに、地元のコンビニにも並んだ
2020年8月26日、ジェラートは新宿高島屋本館で販売を開始しました。
そして、そのわずか6日後。
9月1日から、清瀬市と東久留米市のセブン-イレブン15店舗でも、数量限定販売が始まりました。[1]
新宿の百貨店で生まれた特別なジェラートが、地元の身近なコンビニにも登場したのです。
しかも、これは単に清瀬産の原料を使った商品ではありません。
はちみつを採った場所は、清瀬市役所。 商品開発に関わったのは、百貨店のジェラートブランド。 そして販売場所には、清瀬と東久留米のコンビニが加わりました。
はちみつの行き先を追うと、街の中と外を行き来するような商品づくりだったことが見えてきます。
ただし、コンビニでの販売は2020年当時の数量限定企画です。 現在も同じ15店舗で販売されているという意味ではありません。
それでは、ジェラートの企画が終わったあと、清瀬市役所のミツバチたちはどうなったのでしょうか。
実は2026年も続いている「きよはち」の物語
ジェラートが発売された2020年から、6年。
清瀬市役所の養蜂事業は、2026年現在も続いています。
ただし、運営方法は少し変わりました。
2023年度から、市は屋上での養蜂や採蜜の業務を民間の養蜂事業者へ委託しています。 安定した生産と、清瀬の魅力を伝える取り組みを継続するためです。[2]
最初は市の職員たちが始めた養蜂。 それが、専門事業者とも協力しながら続ける仕組みへと変わったのです。
2026年には、はちみつ自体の常設販売も
もう一つ、大きな変化があります。
かつて「きよはち」はイベントなどでの限定販売が中心でしたが、清瀬市は2026年4月7日から常設販売を開始しました。
市が2026年8月に更新した案内では、市役所本庁舎1階売店と清瀬市郷土博物館が販売場所として紹介されています。
価格は35gが1,200円、100gが2,800円。 春・夏のはちみつについて掲載されています。[2]
ここでようやく、最初の疑問が今の暮らしにつながります。
高島屋とのジェラート企画を知って「市役所のはちみつって何?」と思った人が、今度はそのはちみつ自体を買えるようになったのです。
さらに「きよはち」は、サイダーなど別の地域産品にも活用されています。[4]
2020年のジェラートは、地域産品の展開の一場面だったと考えると、全体のつながりが分かりやすくなります。
今も買える?「きよはち」とジェラートの確認方法
ここは、2020年当時と現在の情報を分けて整理しておきましょう。
現在の「きよはち」販売情報
- 商品
- 清瀬市役所産はちみつ「きよはち」
- 販売場所
- 清瀬市役所本庁舎1階売店、清瀬市郷土博物館
- 価格
- 35g:1,200円/100g:2,800円(春・夏)
- 販売状況
- 2026年4月7日から常設販売を開始。実際の在庫は各販売場所で確認
- 公式情報
- 清瀬市「養蜂事業(きよはち)」
「はちみつチーズジェラート」について
- 発売
- 2020年8月26日
- 当時の販売場所
- 新宿高島屋本館、清瀬市・東久留米市のセブン-イレブン15店舗
- 販売形態
- 2020年の発売時は数量限定
- 現在の商品情報
- ジェラートメーカー「Gelatle TOKYO」の公式サイトには商品紹介が掲載されています。 ただし、2026年10月時点の店頭在庫・常時販売店舗までは確認できていません。
- 商品詳細
- Gelatle TOKYO 商品紹介ページ
過去のニュースに掲載された販売店舗や価格が、そのまま現在も有効とは限りません。 「きよはち」は清瀬市の公式案内、ジェラートは製造元の最新情報を確認してください。 また、はちみつを使用した食品は1歳未満の乳児には与えないでください。
市役所の屋上が、少し違って見えてくる
最初に聞いたときは、奇妙な組み合わせでした。
高島屋のジェラートと、市役所のはちみつ。
けれど、ここまでたどると、その間にはちゃんと道筋がありました。
2014年、花と農業のある街づくりを目指して、市役所の屋上で養蜂を始める。
採れたはちみつを学校給食や地域の商品に活用し、少しずつ「きよはち」という名前が広がる。
そして2020年、百貨店のジェラートブランドとの出会いによって、新しい商品へと姿を変えた。
その商品は新宿だけではなく、清瀬や東久留米のコンビニにも並びました。
市役所の仕事から始まったはちみつが、街の外へ出て、また地元へ戻ってきたのです。
今も続く養蜂事業を知ると、市役所の屋上は、ただの建物の一番上ではなく見えてきます。
そこには巣箱があり、ミツバチがいて、その小さな働きが清瀬という街の商品につながっている。
2020年の「はちみつチーズジェラート」は、そんな清瀬の一面を、新宿の百貨店まで届けた商品だったのです。
参考資料・出典
最終確認日:2026年10月22日。販売開始当時の発表資料と、現在公開されている養蜂事業・商品情報を区別して参照しています。