
IRUMA × SADO|姉妹都市40周年の物語
埼玉県入間市のお祭りに、なぜ新潟県佐渡の「鬼」が現れるのでしょうか。
入間万燈まつりでは、山車や御輿が行き交うなか、鬼の面をつけた踊り手が太鼓の音に合わせて舞う「佐渡鬼太鼓」が披露されます。
読み方は「おにだいこ」ではなく、「おんでこ」。
しかも、佐渡の民謡や「おけさ流し」まで登場します。
入間は埼玉県。佐渡は日本海に浮かぶ島。ずいぶん離れた土地の文化が、なぜ入間の秋祭りに溶け込んでいるのでしょう。
その答えをたどっていくと、意外にも「海のない埼玉県」という地理の話に行き着きます。
先に答えをひとつ
入間市と佐渡市は、1986年10月12日に姉妹都市となりました。
当時の入間市が、海のある都市との交流を望んだことがきっかけです。両市はその後、伝統芸能や物産などを通して交流を続け、2026年に提携40周年を迎えました。[1]
つまり、祭りに現れる鬼は、40年続いてきた街同士の交流を象徴する存在なのです。
鬼なのに、人を守ってくれる?

まずは、鬼太鼓そのものを知っておきましょう。
「鬼」と聞くと、角を生やして人間を追いかける怖い存在を思い浮かべるかもしれません。
ところが佐渡の鬼太鼓では、役割が少し違います。
鬼は、災いを追い払い、人々の暮らしを守る側なのです。
佐渡観光交流機構の解説によると、鬼太鼓は五穀豊穣、つまり米や麦などの作物が豊かに実ることや、大漁、家内安全を祈る伝統芸能です。島内の祭礼では、集落の家々を回りながら厄を払う習わしがあります。[2]
怖そうな面なのに、やっていることは人々の幸せを願うお祈り。
鬼の第一印象が、少し変わってきませんか。
なぜ家々を回って踊るのか
佐渡の祭りで特徴的なのが、「門付け(かどづけ)」という習わしです。
鬼太鼓の一行が集落の家々を訪れ、太鼓に合わせて舞います。
舞台の上で観客を楽しませるだけでなく、地域の家を一軒ずつ訪ね、厄払いと暮らしの安全を願う。そこに鬼太鼓の大切な役割があります。[3]
これは、単なる「鬼のダンス」ではありません。
土地の信仰や、人々の生活と結びついて受け継がれてきた芸能なのです。
鬼太鼓を見るときの小さな発見
鬼の力強い動きだけでなく、太鼓との間合い、手足の運び方、舞い始めと終わりの所作にも注目してみてください。
鬼が何かと戦っているようにも、何かを祈っているようにも見えるかもしれません。
佐渡には「120もの鬼太鼓」がある?

さらに面白いのは、佐渡の鬼太鼓が一つの決まった踊りではないことです。
佐渡観光交流機構によると、島内には約120のエリアで鬼太鼓が受け継がれているといわれています。大きく分けると5つの系統があります。[2]
120という数字も驚きですが、もっと面白いのはその中身です。
同じ系統でも、集落によって鬼の動きや太鼓の打ち方が少しずつ違うのです。
同じ島の中なのに、地域ごとに別の個性を持つ鬼がいる。
まるで、集落ごとに受け継がれてきた音と舞の方言のようです。
5つの系統では、何が違う?
代表的な違いを見てみましょう。
一足流では、片足で跳ねるような独特の動きが見られます。
前浜流では、2匹の鬼が笛と太鼓に合わせて踊ります。
豆まき流では、烏帽子をかぶった翁が長い袖を振って舞うなど、一般的な「鬼」のイメージとは異なる姿が現れます。
このほかに花笠流、潟上流があります。[2]
つまり「鬼太鼓を一度見たから、全部知っている」とは言えないわけです。
入間万燈まつりで佐渡の鬼太鼓を見た人も、実際に佐渡へ行けば、別の集落でまた違う鬼に出会う可能性があります。
では、これほど地域色の強い芸能が、なぜ海を越え、さらに埼玉県の入間市までやって来るようになったのでしょう。
すべての始まりは「埼玉県には海がない」だった

物語は、1986年にさかのぼります。
この年、入間市は市制施行20周年を迎えました。
その記念事業の一つとして、ほかの都市と姉妹都市の関係を結ぶことが検討されていました。
そこで重要な手掛かりになったのが、入間市の公式資料に残された、ある考え方です。
「埼玉県には海がないことから、海のある都市が望ましい」
入間市公式サイト「佐渡市の紹介」に記された、当時の記念事業推進委員会の答申。[1]
なんとも分かりやすい理由です。
海がないのなら、海のある街とつながろう。
ただし、もちろん「海が見たい」というだけで相手が決まったわけではありません。
当時は、関越自動車道や上越新幹線の開通によって、埼玉県から新潟県方面への交通の便が向上していました。
海のある土地との交流を望む気持ちに、実際に行き来しやすくなったという条件が重なったのです。
こうして候補となったのが、当時の新潟県両津市(りょうつし)でした。[1]
ちょっと待って。最初から「佐渡市」ではなかった?
そうなのです。
1986年に入間市が姉妹都市となった相手は、現在の佐渡市ではなく、旧両津市でした。
両津市は佐渡島の東側にあり、新潟本土との航路の玄関口でもあった街です。
2004年3月1日、佐渡島内の10市町村が合併し、新しい佐渡市が誕生しました。
そのため、現在は「入間市と佐渡市の姉妹都市交流」と呼ばれています。[4]
名前は変わっても、交流の歴史は途切れていません。
そして1986年10月12日、入間市と旧両津市は正式に姉妹都市提携を結びました。
これが、現在の入間万燈まつりに佐渡の芸能が登場する、大きな歴史的背景なのです。
40年間、どんな交流が続いてきたのか

では、姉妹都市になった後、両市は具体的に何をしてきたのでしょうか。
ここで、記念の年を順番に見てみます。
10月12日、入間市と旧両津市が姉妹都市に。入間市の市制施行20周年記念事業が、交流の出発点となりました。
佐渡島内の10市町村が合併。旧両津市は新しい佐渡市の一部となり、姉妹都市の関係が引き継がれました。
両市長が交流推進宣言書に調印。入間市の芸能団体「いるま『太鼓』セッション」も、佐渡のイベントで演奏を披露しました。
入間万燈まつりで「佐渡芸能まつりin万燈」を開催。佐渡を拠点とする太鼓芸能集団「鼓童」の公演や、両市の学校で交流給食も行われました。
40周年を記念した交流事業を展開。5月には入間の太鼓団体が佐渡を訪れ、秋の入間万燈まつりでは40周年記念式典や佐渡の芸能が予定されています。
年表の主な情報は、入間市・佐渡市・入間市国際交流協会の資料に基づきます。[4][5][6]
ここで注目したいのは、交流が祭りの出演だけにとどまっていないことです。
学校給食、物産の紹介、スポーツ団体の交流など、さまざまな形で両市の人々が関わってきました。
佐渡市の2025年度の交流報告には、入間市の「宮寺剣友会」の小中学生20人が佐渡を訪れ、現地の子どもたちと合同稽古をしたことも記録されています。
しかも、剣道を通じた交流は約30年前から続いてきたそうです。[7]
祭りの鬼太鼓は目立つ存在ですが、その後ろには、ずっと地道に続いてきた人と人との交流があります。
実は2026年、入間の太鼓も佐渡に渡っていた
ここで、少し見方を変えてみましょう。
入間のお祭りに佐渡の鬼太鼓がやって来る。
ここまでの話だけなら、佐渡が芸能を披露し、入間がそれを迎えるという一方向の交流に見えるかもしれません。
ところが、2026年5月23日・24日には、逆の出来事がありました。
入間市の「いるま『太鼓』セッション」の関係者が佐渡に渡り、太鼓を演奏していたのです。
舞台は佐渡市両津湊の「おんでこドーム」で開かれた「佐渡國鬼太鼓どっとこむ」。
入間市が2026年5月27日に公表した記者会見資料では、姉妹都市提携40周年の記念式典への参加と太鼓の披露が報告されています。[6]
つまり、鬼太鼓が入間へやって来る一方で、入間の太鼓も佐渡へ出かけていたのです。
太鼓の音が、海を挟んで行ったり来たり。
この往復こそ、40年続いてきた文化交流を理解するうえで、とても大切な手掛かりです。
佐渡の文化を入間で紹介し、入間の文化も佐渡で披露する。
両市の関係は、単なる特産品の紹介や観光案内を超えて、お互いの地域文化を持ち寄るものになっているのです。
では、鬼太鼓と一緒に登場する「おけさ流し」は何?

入間万燈まつりで、佐渡の文化を感じられるのは鬼太鼓だけではありません。
もう一つの見どころが「佐渡おけさ」です。
佐渡おけさは、佐渡を代表する民謡の一つ。哀愁のある節回しと、しなやかで優雅な踊りが特徴です。
佐渡観光交流機構の解説では、その源流は九州のハイヤ節といわれています。
船乗りによって佐渡の小木へ伝わり、座敷唄や盆踊りの唄として変化し、金山の選鉱場でも唄われるようになったとされています。[2]
九州から佐渡へ。
そして佐渡から入間へ。
歌もまた、人の移動とともに地域を越えてきたわけです。
鬼太鼓と佐渡おけさは、何が違う?
鬼太鼓は、集落の祭礼や厄払い、豊作祈願などと深く結びついてきた芸能です。
一方、佐渡おけさは、歌と踊りを通して発展してきた民謡文化です。
同じ佐渡を代表する芸能でも、その成り立ちや楽しみ方は異なります。
鬼太鼓の力強い動きと、佐渡おけさの優美な踊り。
一度のお祭りで、佐渡の文化の違う表情に出会えるのが面白いところです。
そして、この二つの芸能が披露される舞台こそ、姉妹都市40周年を迎えた入間万燈まつりなのです。
2026年はいつ見られる?鬼太鼓とおけさ流しの予定
2026年の入間万燈まつりは、10月24日(土)・25日(日)の2日間。
今年は姉妹都市提携40周年の節目にあたり、佐渡鬼太鼓、佐渡民謡、おけさ流し、記念式典などが予定されています。
主な時間と場所を整理しました。
10月24日(土)|佐渡の芸能・記念式典
入間市産業文化センターホール
式典の一般観覧条件は主催者案内を確認してください。
産業文化センター前
茶の花通り
産業文化センター前
けやきステージ
10月25日(日)|鬼太鼓とおけさ流し
産業文化センター前
けやき通り
雨天中止の予定
茶の花通り
茶の花通り
上記は2026年の祭りプログラムに基づく予定です。一部の出演を抜粋しています。天候や進行状況で変更されることがあります。最終確認:2026年10月22日。[8]
鬼太鼓を見たいなら、両日とも産業文化センター周辺が注目ポイントです。
一方、おけさ流しを見るなら、25日(日)の午前10時から、けやき通りが狙い目です。
ただし、鬼太鼓の上演場所や時刻は一つではありません。複数の演目を見たい人は、当日の会場図とプログラムを確認しましょう。
もう一つの佐渡交流。「おけさ柿」も入間にやって来る
太鼓や踊りだけでなく、佐渡の食べ物を通した交流も続いています。
2025年の入間万燈まつりでは、佐渡物産展で「おけさ柿」「佐渡棚田米」、水産加工品などが販売されました。
佐渡市の報告によると、特におけさ柿は長い行列ができ、早々に完売するほどだったそうです。[7]
「おけさ」という言葉が、踊りだけでなく柿の名前にも登場します。
しかも柿は、太鼓よりも気軽に持ち帰れる佐渡の文化の一つ。
佐渡の農産物や食文化を知ることも、姉妹都市交流の楽しみ方です。
2026年も佐渡物産展が予定されています。販売内容や数量は当日の案内を確認してください。人気商品は早い時間に売り切れる可能性があります。
入間万燈まつり2026|基本情報とアクセス
| イベント | 第46回 入間万燈まつり |
|---|---|
| 開催日 | 2026年10月24日(土)・25日(日) |
| 開催時間 | 24日 12:30〜20:00 25日 9:15〜16:45 |
| 主な会場 | 入間市産業文化センター周辺、けやき通り、茶の花通り、ひばり通り、彩の森入間公園など |
| 最寄駅 | 西武池袋線「入間市駅」南口。会場入口まで徒歩約10分が目安 |
| 料金 | 一般来場は入場無料。飲食・物販などは別途有料 |
| 予約 | 一般来場は事前予約不要。個別企画は別条件の場合あり |
| 公式情報 | 入間万燈まつり公式サイト |
祭り当日は会場周辺で車両交通規制が行われます。電車での来場が便利です。
鬼太鼓などの演舞を観覧するときは、出演者の動線をふさがないようにし、現地スタッフの案内に従ってください。
なお、会場全体の配置や屋台、駐車場、ステージプログラムについては、ekiripの入間万燈まつり2026完全ガイドで詳しく紹介しています。
海のない街で、海の向こうの鬼が踊る
最初は、少し不思議な組み合わせでした。
埼玉県入間市のお祭りに、新潟県佐渡の鬼が現れる。
でも、ここまでたどってくると、その姿が少し違って見えてきます。
1986年、海のない入間市が、海のある街との交流を望んだこと。
交通の発展が、その願いを実現しやすくしたこと。
そして40年の間に、芸能や物産、学校やスポーツを通じて、人々が行き来する関係に育っていったこと。
佐渡の鬼太鼓は、もともと島の集落で、人々の安全や豊作を願って受け継がれてきた芸能です。
その鬼が今、遠く離れた入間市の祭りでも舞っています。
しかも2026年には、入間の太鼓も海を渡り、佐渡で演奏を披露しました。
太鼓の音が交わされる先には、40年間にわたる街と街の関係があります。
今年の万燈まつりで鬼の面を見かけたら、少しだけ立ち止まってみてください。
そこにいるのは、遠くの島からやって来た、暮らしの幸せを願う鬼です。
そして、その鬼が入間にいる理由そのものが、海のない街と海のある街が築いてきた40年の物語なのです。
この祭りを、もう少し深く楽しむなら
佐渡の鬼が入間にやって来る理由を知ったら、今度は祭りそのものにも目を向けてみましょう。
山車の競演や市内各地区の伝統行事にも、街の人々が受け継いできた物語があります。
参考資料・出典
以下は入間市、佐渡市、交流団体、観光関係機関などの資料です。姉妹都市の提携経緯、鬼太鼓の文化的意味、過去の交流事業は一次資料を中心に確認しました。
-
入間市|佐渡市の紹介・姉妹都市提携の始まり
発行:入間市
公式資料を読む -
さど観光ナビ|佐渡の伝統文化
発行:佐渡観光交流機構
鬼太鼓・佐渡おけさの文化的背景、五つの系統
公式資料を読む -
さどタイムス|鬼太鼓
発行:佐渡汽船の観光情報サイト
鬼太鼓の歴史、門付け、鬼の役割
解説を読む -
入間市国際交流協会|姉妹都市 新潟県佐渡市
提携25周年・30周年記念事業など
交流の歴史を読む -
佐渡市|埼玉県入間市
発行:佐渡市
提携日、提携の経緯、交流事業
佐渡市公式資料を読む -
入間市|2026年5月27日 市長定例記者会見資料
姉妹都市提携40周年記念事業、佐渡國鬼太鼓どっとこむへの入間側参加
記者会見資料を見る(PDF) -
佐渡市|令和7年度 入間市との交流
2025年の入間万燈まつり参加、佐渡物産展、鬼太鼓・民謡の披露、剣道交流
交流報告を読む -
入間万燈まつり公式サイト|2026年プログラム・開催案内
第46回入間万燈まつりの開催情報、各演目の時間、会場案内
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情報最終確認:2026年10月22日。2026年の出演時刻は公表済みプログラムと関連案内を照合した予定情報です。公式サイト本体は調査時に直接取得できなかったため、当日の変更情報は主催者発表を優先してください。歴史・文化に関する記述は資料に基づき、文章中の比喩や解釈はekirip編集部によるものです。