
EKIRIP|花小金井・田無 × 宇宙と街の歴史
東京都西東京市に、直径27.5メートル、1億4,000万個を超える星を映し出すプラネタリウムがあります。
その名は「多摩六都科学館」。
世界最大級のドームを持ち、投映機が世界一に認定されたこともある施設です。
西武新宿線の花小金井駅や田無駅から行ける、ごく身近な場所。
六本木でも、お台場でも、都心の巨大な観光施設でもありません。
なのに、世界規模。
これは少し不思議です。なぜ、これほど大きなプラネタリウムが西東京市にあるのでしょうか。
調べていくと、意外なことが分かりました。
実はこの科学館、西東京市が単独で造った施設ではなかったのです。
多摩六都科学館は、もともと田無市・保谷市を含む6つの市が協力して構想した、地域共同の科学館です。
1994年に開館し、2012年の大規模リニューアルによって、約1億4,000万個の星を投映する世界的な性能を備えました。[1][2]
最初から「世界一のプラネタリウムを西東京市に」という単純な物語ではなかったのです。
では、なぜ6つの市が一つの科学館を造ることになったのでしょう。
なぜ西東京市に?始まりは「6つの市」の共同計画だった

話を1987年まで戻してみます。
当時、多摩北部には現在の西東京市がまだ存在していませんでした。
代わりにあったのは、田無市と保谷市。
そして、この2市を含む6つの市が、ある取り組みを始めます。
田無市・保谷市・小平市・東村山市・清瀬市・東久留米市
田無市と保谷市は2001年に合併し、現在の西東京市になりました。
1987年1月、この6市は「多摩北部都市広域行政圏協議会」を設置しました。
名前は少し難しいですが、考え方はシンプルです。
隣り合う街同士が協力し、一つの市だけでは取り組みにくい事業も、地域全体で進めようという仕組みです。
その共同事業の一つとして、子ども科学博物館の建設構想が生まれました。1988年11月のことです。[1][2]
科学を学ぶ施設を、一つの市の住民だけでなく、周辺地域の人たちにも利用してもらう。
つまり、科学館の背後には、最初から6市分の地域と人々がいたのです。
街の科学館だと思っていたら、実は6つの街による共同プロジェクト。
ここで、世界規模の施設が西東京市にある理由が少し見えてきます。
建設と用地取得には東京都の支援も受け、1994年3月に科学館が開館しました。[3]
ただし、資料から確認できるのは、広域連携による建設の経緯までです。現在の芝久保町の敷地が他の候補地より優先された詳細な選定理由までは、今回確認できた公式資料では特定できませんでした。
それでも、一つ大切なことがあります。
この場所に科学館がある背景は、単なる一都市の観光施設誘致ではなく、周辺の街が協力して学びの拠点を造ろうとした歴史にある、ということです。
それなら、なぜ今も「六都」?現在は5市なのに

ここで、別の違和感が出てきます。
多摩「六都」科学館。
ところが現在、この科学館を共同で設置している自治体は5市です。
小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市。
あれ、1市足りません。
その理由は、2001年1月21日に田無市と保谷市が合併し、西東京市が誕生したことにあります。
もともとの6市が、合併によって5市になったのです。
では、どうして「多摩五都科学館」にならなかったのでしょうか。
実は「多摩六都」という名前は、1993年3月に地域住民からの公募によって決まった愛称です。
その後、自治体の数が変わっても、すでに親しまれていた「多摩六都」という名前を継続して使用することになりました。[4]
「六都」は、現在の市の数ではなく、この施設が生まれた時代を伝える名前だったのです。
数字が間違っているわけではありません。
街の形が変わっても、名前だけが昔の姿を覚えている。
そう考えると、科学館の看板が少し違って見えてきます。
そして、ここでもう一つ気になることがあります。
6市の共同事業だったとはいえ、どうして直径27.5メートルもの巨大ドームがあり、1億4,000万個もの星を投映できるのでしょうか。
その答えは、開館から18年後にありました。
実は最初から世界一ではなかった。転機は2012年

多摩六都科学館が開館したのは1994年3月1日。
しかし、現在知られている約1億4,000万個の星を映し出す仕組みが完成したのは、2012年です。
ここが重要です。
大きなドームを備えた科学館として誕生し、その後の改修で投映技術が世界規模へと進化したのです。
多摩北部都市広域行政圏協議会が発足します。
地域共同の学習・文化施設として、子ども科学博物館の建設が検討されます。
地域の学びの拠点として科学館が誕生します。
田無市と保谷市の合併で、共同事業の構成自治体は6市から5市になります。
投映機器やスクリーン、座席、床などを更新。約1億4,000万個の星を投映する設備が誕生しました。
光学式投映機「CHIRONⅡ(ケイロンⅡ)」が世界一の認定を受けました。
出典:多摩六都科学館組合「科学館の沿革」「リニューアル工事リポート」。[2][5]
2011年11月から2012年6月末にかけて、プラネタリウムの上映を休止し、大規模な改修工事が行われました。
そして2012年7月7日、リニューアルオープン。
ここで登場したのが、光学式プラネタリウム投映機「CHIRONⅡ」です。
この投映機は、約1億4,000万個の星を映し出せる性能を持ち、2012年10月に世界一の認定を受けました。[2]
世界最大級なのは、直径27.5メートルのプラネタリウムドーム。
世界一に認定された実績があるのは、2012年に導入された星の投映技術です。
ドームの大きさと、映し出せる星の数は別の評価です。「現在もあらゆる指標で世界一」という意味ではありません。
巨大な器を造り、その18年後に中身を大きく進化させた。
多摩六都科学館の世界規模という特徴は、長い時間をかけて実現したものだったのです。
1億4,000万個の星。そもそも、そんなに映して何が変わる?

1億4,000万。
大きすぎて、もはや想像するのが難しい数字です。
そもそも夜空を見るだけなら、そんなにたくさんの星を映す必要があるのでしょうか。
ここに、このプラネタリウムの技術的な面白さがあります。
私たちが夜空を見上げたとき、目立つのは明るい星です。
しかし宇宙には、それよりもはるかに暗く、細かな光を放つ星が無数にあります。
CHIRONⅡは、観測で得られた膨大な恒星データをもとに、肉眼では一つずつ見分けにくい暗い星々まで投映します。
特に大きな違いが生まれるのが、天の川です。
天の川は、単なる白い帯ではありません。
遠くにある無数の星の光が重なり合って見えているものです。
この投映機では、天の川を構成する星々を、細かな光の点として表現しています。[6]
つまり、星の数が多いことは、単に「数を競うため」ではありません。
夜空の奥行きや、天の川の質感を、より本物に近づけるための技術なのです。
これなら、1億4,000万という途方もない数字にも意味が見えてきます。
星を映す技術にも、意外な工夫がある
CHIRONⅡを開発したのは、東京都府中市にある五藤光学研究所です。
大型ドーム向けの光学式投映機として、23メートル以上のドームでは世界初となる高輝度LED光源を採用しました。[6]
光学式とは、レンズなどを通してスクリーンに星の光を投映する仕組みです。
映像を大きく表示するだけでなく、星の一つひとつを鋭い光の点として表現できることが特徴です。
さらに、ドーム全体を利用するデジタル大型映像の設備も備えています。
星の光を精密に表す光学式投映機と、動きのある映像を表現するデジタル設備。
それぞれ異なる得意分野を持つ技術が、一つの大きなドームに組み込まれているのです。
西東京市にあるのは、単に大きなスクリーンではありません。
宇宙をどう表現するかを追求した、技術の詰まった空間なのです。
直径27.5メートルのドームは、何がそんなにすごい?

今度は、星を映す「器」の方に注目してみましょう。
多摩六都科学館のプラネタリウムドームには、「サイエンスエッグ」という名前が付いています。
直径は27.5メートル。
25メートルプールの長さよりも、さらに2.5メートル大きな直径です。
プールを横向きにして、頭上に丸い空間を造るようなスケールを想像すると、かなり巨大であることが分かります。
しかも、ただ大きいだけではありません。
サイエンスエッグは、スクリーンが斜めに設置された「傾斜型ドーム」です。
座席から見上げると、頭上だけでなく、足元に近い方向まで星空や映像が広がるように設計されています。[6]
平らな映画館のスクリーンを眺める感覚とは、少し違います。
目の前に宇宙があるというより、自分がその大きな空間の内側にいるような見え方を目指した構造です。
27.5メートル
頭上から視界の広い範囲を覆う、世界最大級のドーム直径。
1億4,000万個超
光学式投映機CHIRONⅡが表現できる星の数。
ただし、星が1億4,000万個映るからといって、それを肉眼で一つずつ数えられるという意味ではありません。
大切なのは、非常に多くの微細な星の光を組み合わせることで、夜空全体の表現力を高めていることです。
大きなドームと細かな星の表現。
この二つが合わさることで、多摩六都科学館ならではの星空が生まれます。
でも、一番の特徴は機械ではなく「人」かもしれない
ここまで、巨大なドームと高性能な投映機の話をしてきました。
では、その装置が自動で星空を映して終わりなのでしょうか。
実は、そうではありません。
多摩六都科学館のプラネタリウムは、スタッフによる全編生解説を大きな特徴としています。
解説員がその日の星空を紹介しながら、季節の星座や宇宙の話を伝えてくれます。
テーマ解説は約2か月ごとに入れ替わり、担当する解説員によって語り口やBGMも変わります。[6]
同じ機械、同じドームでも、誰が話すかによって体験が変わるわけです。
宇宙を映すのは最新技術。
その宇宙を身近にしてくれるのは、人の言葉。
この組み合わせが面白いところです。
科学館が生まれた理由を思い出してみると、少し納得できます。
そもそもこの施設は、地域の人たちが科学を学び、興味を広げるために構想されました。
世界規模の性能を手に入れても、役割の中心には「人が学ぶこと」が残っているのです。
プラネタリウムだけじゃない。なぜ5つの展示室がある?
多摩六都科学館には、もう一つの顔があります。
それが、5つの常設展示室です。
それぞれのテーマは、次のとおり。
| 展示室 | 主なテーマ |
|---|---|
| チャレンジの部屋 | 考える、試す、挑戦する |
| からだの部屋 | 人体や感覚の不思議 |
| しくみの部屋 | 身の回りの仕組みや技術 |
| 自然の部屋 | 生き物と自然環境 |
| 地球の部屋 | 地球やその成り立ち |
2013年3月には、展示室が「Do Science=科学する」をテーマにリニューアルされました。
見るだけではなく、観察したり、工作したり、実験したり。
自分で手を動かしながら、科学の仕組みを考えられるようになっています。[2]
プラネタリウムで宇宙の大きさに触れ、展示室では身近なものの仕組みを調べる。
遠くの星から、目の前の自分の体まで。
扱う範囲がずいぶん広い科学館です。
しかし、これも最初の構想とつながっています。
6市が目指したのは、プラネタリウム単体の施設ではなく、地域の人々が科学に親しむための総合的な学習拠点だったからです。
世界最大級のドームが注目されがちですが、科学館の目的は宇宙を見ることだけではないのです。
実際に行くなら?料金・開館時間・花小金井駅からのアクセス
これほど大きな施設ですが、都心まで出かけなくても、西武新宿線沿線から訪れることができます。
プラネタリウムと展示室を利用できる観覧付入館券は、大人1,040円、4歳から高校生まで420円です。[7]
- 施設名
- 多摩六都科学館
- 所在地
- 東京都西東京市芝久保町5-10-64
- 開館時間
- 9:30〜17:00(発券16:00まで)
- 休館日
- 原則月曜日(祝日・振替休日は開館し翌日休館)、祝日の翌日、年末年始、機器整備日など
- 電話番号
- 042-469-6100
- プラネタリウム
- 全編生解説:約45分、キッズプラネタリウム:約35分
- 最寄り駅
- 西武新宿線 花小金井駅・田無駅
- 公式サイト
- 多摩六都科学館 公式サイト
料金はいくら?
| チケット | 大人 | 4歳〜高校生 |
|---|---|---|
| 展示室のみ | 520円 | 210円 |
| 展示室+プラネタリウムまたは大型映像1回 | 1,040円 | 420円 |
| 展示室+プラネタリウム1回+大型映像1回 | 1,460円 | 530円 |
2026年10月23日確認の公式掲載料金。3歳以下は無料。通常券は当日券として案内されています。最新のチケット販売方法、特別プログラムの条件は公式案内を確認してください。[7]
花小金井駅から行くには?
花小金井駅北口から徒歩約18分です。
歩く以外にも、駅北口から「はなバス」第4北ルートを利用し、「多摩六都科学館」バス停で下車する方法があります。
バス停から科学館はすぐです。
田無駅からも行ける?
田無駅からも、はなバスを利用してアクセスできます。
ただし、田無駅と花小金井駅ではバスの乗車方向や経路が異なります。乗車前に行先と経由地を確認してください。
最新の時刻表や交通案内は科学館公式アクセスページで確認できます。[8]
車でも行ける?
科学館には有料駐車場があります。
普通車は入庫後30分まで無料。その後は30分ごとに100円で、1日最大700円です。
普通車の収容台数は170台。駐車料金の支払いは現金のみと案内されています。[8]
上映スケジュールは日によって異なるため、プラネタリウムが目的なら、訪問日を決める前に公式イベントカレンダーを確認すると安心です。
なぜ西東京市に世界規模の宇宙があるのか。その答え
最初の疑問に戻りましょう。
なぜ、花小金井や田無から行ける街の科学館に、直径27.5メートルもの巨大なドームがあるのでしょうか。
調べる前は、巨大な観光施設を誘致したような話を想像するかもしれません。
ところが、実際の出発点は違いました。
1987年、6つの市が協力を始めたこと。
一つの市だけではなく、周辺地域の人々がともに利用する科学の拠点を造ろうとしたこと。
1994年に開館し、2012年の改修で世界的な投映性能へと進化したこと。
そして、現在も人の言葉による生解説を大切にしていること。
これらがつながると、一つの姿が見えてきます。
多摩六都科学館は、世界規模の施設を目指して突然生まれたのではなく、地域の学びの拠点が、時間をかけて世界規模の技術を持つ場所へと育ってきた科学館だったのです。
もちろん、世界規模の性能を導入した個々の技術選定や、現在の敷地を選んだ細かな判断については、さらに調べる余地があります。
それでも、確かに分かったことがあります。
6つの市が5つになっても、「六都」という名前は残りました。
そして、その名前を持つ建物の中では、1億4,000万個を超える星が投映されています。
次に花小金井や田無を通るとき。
いつもの住宅地の先に、6つの街が力を合わせて生まれた巨大な宇宙がある。
そう思うと、いつもの西武線沿線の景色も、ほんの少し違って見えるかもしれません。
参考資料・出典
最終情報確認日:2026年10月23日。施設公式サイト、設置自治体、科学館組合の公開資料を参照しました。料金・休館日・投映内容は変更される場合があります。
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多摩六都科学館組合「圏域市民の皆様へ」
科学館建設の背景、6市の共同事業、開館の経緯。
https://www.tamarokuto-sc.or.jp/modules/page/index.php?content_id=1&page=print
確認日:2026年10月23日 -
多摩六都科学館組合「多摩六都科学館の沿革」
1987年の協議会設立、1994年開館、2012年改修、世界一認定などの年表。
https://www.tamarokuto-sc.or.jp/modules/tamarokuto/index.php?content_id=1
確認日:2026年10月23日 -
清瀬市「多摩六都科学館組合」
構成市の共同設置、東京都による建設・用地取得支援。
https://www.city.kiyose.lg.jp/siseijouhou/machizukuri/gyouseikeiei/1004478.html
確認日:2026年10月23日 -
西東京市「多摩北部都市広域行政圏協議会」
「多摩六都」の公募による命名と、5市になってからも愛称を継続した経緯。
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/siseizyoho/sesaku_keikaku/20210319102559553.html
確認日:2026年10月23日 -
多摩六都科学館組合「リニューアル工事リポート」
2011〜2012年のプラネタリウム改修、投映機導入、世界一認定の報告。
https://www.tamarokuto-sc.or.jp/modules/tamarokuto/index.php?content_id=2
確認日:2026年10月23日 -
多摩六都科学館「プラネタリウム」
ドームの大きさ、CHIRONⅡの性能、LED光源、天の川の表現、生解説。
https://www.tamarokuto.or.jp/planetarium/
確認日:2026年10月23日 -
多摩六都科学館「開館時間・ご利用料金」
開館時間、休館日、通常入館券、観覧付入館券の料金。
https://www.tamarokuto.or.jp/guide/
確認日:2026年10月23日 -
多摩六都科学館「アクセス」
鉄道・バスによるアクセス、駐車場情報。
https://www.tamarokuto.or.jp/access/
確認日:2026年10月23日
編集注:2012年の「世界一認定」は当時の投映技術に関する実績です。ドームの世界最大級という表現と、世界一認定の対象を区別して記載しています。