
多摩湖駅|駅名からほどく、湖と遊園地の歴史
「多摩湖駅」と聞けば、湖のそばにある駅。じつに分かりやすい名前です。
ところが、昔の路線図を開くと、同じ駅に「西武遊園地」と書かれています。さらにさかのぼると、「狭山公園前」「村山貯水池」。駅名だけで、ちょっとした周辺案内ができそうです。
なぜ、こんなに名前が変わったのでしょう。
まず数を確かめると、西武鉄道の公式資料に載る改名は、6回ではなく4回。そして、2021年の「多摩湖」は新しい名前の発明ではなく、約42年ぶりの復活でした。[1]
湖は同じところにあるのに、駅の名札は付け替わる。その理由を追うと、楽しい行楽地の歴史だけでは説明できない、最初の改名に行き当たります。
4回なのに、名前が5つ並ぶのはなぜ?
先に、駅名の順番をほどいておきましょう。西武鉄道の「駅名の変遷」では、現在の多摩湖駅につながる歴史は、1936年の「村山貯水池」から始まります。[1]
| 年月日 | 駅名 | 数え方 |
|---|---|---|
| 1936年12月30日 | 村山貯水池 | 開業時の名前 |
| 1941年4月1日 | 狭山公園前 | 1回目の改名 |
| 1951年9月1日 | 多摩湖 | 2回目の改名 |
| 1979年3月25日 | 西武遊園地 | 3回目の改名 |
| 2021年3月13日 | 多摩湖 | 4回目の改名 |
出典:西武鉄道「駅名の変遷」。同じ「多摩湖」が二度登場するため、名前の種類は4種類、時系列の区切りは5つ、変更は4回です。
数字だけでも、少しややこしい。さらに周辺には、よく似た旧駅名を持つ別の駅もありました。
たとえば、今の武蔵大和駅にも「村山貯水池」という旧駅名があります。また、西武鉄道の表では、西武園駅の欄に「村山貯水池前」、西武球場前駅の欄に「村山貯水池際」が登場します。[1]
「前」と「際」。一文字まで見逃せません。
これらを一つの駅の歴史としてつなぐと、別の駅の名札まで混ざってしまいます。「6回」という数え方の根拠は今回確認できませんでしたが、公式資料から確かめられる多摩湖駅の改名は、上の4回です。
では、その出発点にある「村山貯水池」とは、どこを指していたのでしょう。
「村山貯水池」は、消えてしまった湖なの?
答えは、今も目の前にある多摩湖です。
東京都水道局は、村山上・下貯水池を「多摩湖」と併記しています。村山上貯水池は1924年3月、村山下貯水池は1927年3月に完成しました。見晴らしのよい湖は、もともと水道用の水をためるために造られた施設なのです。[2]
つまり「村山貯水池駅」は、今の感覚でもかなり正確な名前でした。湖が消えたわけでも、別の湖へ行き先が変わったわけでもありません。
いまは景色を楽しみに向かう人も、水道施設のそばへ向かっている。その二つの顔が、すでに湖そのものにありました。
それなら、なぜ正確だった「貯水池」の文字を外したのでしょう。ここで、話は観光案内から離れます。
最初の改名は、行楽地の宣伝ではなかった
1941年4月1日、「村山貯水池駅」は「狭山公園前駅」になります。[1]
鉄道史を扱った東洋経済オンラインの記事は、この年、政府が周辺の「貯水池」を含む駅名の変更を指導したと説明しています。理由は、戦争で貯水池が攻撃目標になることを避けるためでした。「散歩の達人」の解説も、軍事上重要な施設を駅名から分からなくする、国防上の事情を挙げています。[3][4]
公園の名前に変わったと聞くと、行楽客に親しみやすくしたのかな、と考えたくなります。けれど、資料が伝える背景は、ずっと切実でした。
水をためる場所だと知らせる名前から、その役割を表に出さない名前へ。少なくとも最初の改名は、「レジャー施設が増えたから」で片付けられません。
戦後の1951年9月には「多摩湖駅」へ改名。ここで初めて、現在につながる湖の呼び名が駅の看板に登場します。[1]
ようやく、なじみのある名前になりました。ところが、ここで固定とはいきません。1979年、駅名から湖が姿を消します。
「西武遊園地」になった駅が、なぜまた湖の名前に?
1979年3月25日、多摩湖駅は「西武遊園地駅」になりました。駅名だけを読むと、主役が湖から遊園地へ交代したように見えます。これは名称の変化から読み取れることで、改名の細かな決定経緯までを示すものではありません。[1]
では、2021年に「多摩湖」へ戻したのは、昔の名前を懐かしんだからでしょうか。
その答えは、西武鉄道が2020年に出した改名の発表資料にあります。西武園ゆうえんちのリニューアルに合わせ、遊園地への行き方を分かりやすくするため、二つの駅の名前をセットで変更する計画でした。[5]
2021年3月13日に変わった、二つの駅
西武遊園地駅 → 多摩湖駅
遊園地西駅 → 西武園ゆうえんち駅
二つは別の駅です。「西武遊園地」を、同じ場所で「西武園ゆうえんち」と書き換えたわけではありません。[1]
ここが、駅名だけを記憶していると迷いやすいところ。「漢字がひらがなになったんだね」で済ませると、降りる駅まで変わってしまいます。
新たなメインゲートの最寄りとなる「遊園地西駅」には、目的地が伝わる「西武園ゆうえんち駅」という名前を付ける。一方の旧「西武遊園地駅」には、湖と地域に結び付く名前を付ける。二駅を並べると、変更の意味が見えてきます。[5]
「多摩湖」が選ばれた理由も、発表資料には具体的にあります。湖の最寄り駅であること、所在地が東村山市多摩湖町であること、そして1951年から1979年まで使われ、地域で親しまれてきた名前だったことです。[5]
約42年ぶりの復活には、懐かしさだけでなく、今の行き先を伝え直す役割もありました。
名前の続きを、駅の外で確かめるなら
現在の多摩湖駅は、西武多摩湖線と山口線の駅。所在地は東京都東村山市多摩湖町3-15-18です。[6]
都立狭山公園は、多摩湖駅から徒歩約3分。常時開園で入園無料です。湖の堤防の東側に公園が広がっており、「村山貯水池」と「狭山公園前」という旧駅名が指した周辺の風景を、散策の中で見比べられます。[7]
1936年当時の駅は現在の駅舎と同じ位置ではなく、「散歩の達人」は1961年に約400m延伸して現在地へ移転したと説明しています。旧駅名をたどる際も、昔のホームが今の場所にあったとは限りません。工事や入口の変更は、出発前に狭山公園の最新案内をご確認ください。[4]
三文字の駅名に、何が戻ってきたのか
最初は「湖のそばだから多摩湖駅」。それで十分に思えた名前でした。
けれど順番をたどると、水道施設の名を掲げた時代があり、その文字を外した戦時中があり、遊園地を案内する名前がありました。そして、入口の役割が変わるとき、湖と町に結び付く名前がもう一度選ばれています。
4回の改名は、すべて同じ理由ではありません。駅が伝えようとするものが、その時々で違っていたのです。
今の「多摩湖」という三文字は、ずっと変わらなかった名前ではなく、いくつもの事情を経て戻ってきた名前。次に駅名標を見ると、その簡潔さの奥に、湖、公園、遊園地の重なりが少し見えてきそうです。
名前の違いが分かったら、次は実際の行き先へ。同じ駅から、もう少しだけ寄り道を続けられます。