
IRUMA CULTURE GUIDE|入間の祭りを音から楽しむ
山車の上から聞こえてくる、ピーヒャラという笛の音。ドンドンと響く太鼓。そして、チャンチャンと鳴る金属の音。
入間万燈まつりを歩いていると、あちこちからお囃子(おはやし)が聞こえてきます。
楽しげな音楽だなあ、と思って通り過ぎそうになりますが、ちょっと気になることがありませんか。
どうして、笛と太鼓と鉦(かね)を一緒に鳴らすのでしょう。
それに、ある場面では軽やかだった演奏が、別の場面では急に勢いを増すことがあります。
演奏する人が、盛り上がっているだけ?
もちろん演奏の熱気もあります。でも、お囃子を調べていくと、それだけでは説明できない仕組みが見えてきます。
実は、曲には名前があり、地域ごとに受け継がれてきた流儀があります。そして、音楽と一緒に踊る人の動きも、見逃せない手掛かりでした。
あります。ただし、一つひとつの音が決まった言葉を表すわけではありません。
笛が旋律を奏で、太鼓と鉦がリズムを支え、演奏に合わせて舞が展開します。曲の違いや演奏の仕方によって、場の雰囲気や動き方も変わります。
1.あの「チャンチャン」は何?お囃子を支える5人の楽器

お囃子を理解する最初の手掛かりは、意外にも人数です。
埼玉県西部に伝わる祭り囃子には、笛1人、太鼓3人、鉦1人という「五人囃子」の形があります。
たとえば隣接する狭山市の西方囃子では、小太鼓2、大太鼓1、鉦1、笛1に舞を加えた構成が市の文化財資料に記されています。[2]
つまり、笛と太鼓だけではなく、あの金属音にもきちんと役割があるのです。
横笛の音が高く伸びたり、細かく動いたりすることで、曲の流れが聞こえてきます。
太鼓の音に気を取られていても、一度笛だけを追いかけてみると、お囃子が単なるリズムの繰り返しではないことに気づきます。
小ぶりの太鼓を使い、細かなリズムを刻みます。
同じように見える2人の奏者も、役割を分けながら一つのリズムを形づくります。
耳を澄ませると、単純な「ドンドン」ではなく、複数の音が組み合わさっていることが分かります。
低く響く太鼓が、演奏全体を支えます。
笛や小太鼓が細かく動いていても、大太鼓の音を意識すると拍のまとまりをつかみやすくなります。
金属製の打楽器です。祭り囃子では、すり鉦と呼ばれる種類が用いられます。
太鼓とは異なる鋭い音色が重なることで、リズムの輪郭がはっきりします。
遠くから聞こえてくる、あの独特の祭りらしさ。鉦は、その印象をつくる大切な楽器の一つです。
「ピーヒャラ」「テンツク」「チャンチャン」は、音をイメージしやすくするための表現です。実際の演奏で使われる正式な唱歌(しょうが・口でリズムを表す言葉)や奏法を、そのまま表記したものではありません。
また、すべての祭り囃子が五人編成とは限りません。地域や団体によって構成は異なります。
さて、ここで新しい疑問です。
楽器は分かりました。でも、なぜ5人で音を合わせるだけで、あれほど表情豊かな音楽になるのでしょうか。
2.同じ太鼓なのに、なぜ速くなったり遅くなったりする?

お囃子を聴いていると、落ち着いた曲調から、細かいリズムが続くにぎやかな展開へ変わることがあります。
ここで知っておきたいのは、祭り囃子は一曲を同じ調子で延々と演奏する音楽ではないということです。
伝承されている曲には、それぞれ名前があります。
たとえば狭山市の菅原囃子に伝わる曲目として、市の資料には次の名前が記されています。[3]
| 曲名 | 読み方 |
|---|---|
| 屋台 | ヤタイ |
| 正殿 | ショウデン |
| 鎌倉 | カマクラ |
| 仁羽 | ニンパ |
| 四丁目 | シチョウメ |
| 神田丸 | カンダマル |
| 流し | ナガシ |
| シャギリ | シャギリ |
これは入間万燈まつりの全団体共通の曲目一覧ではなく、近隣の菅原囃子について確認できる伝承曲の例です。
それにしても、曲名が気になります。
「屋台」は分かるとして、「鎌倉」「四丁目」「神田丸」。地名のようなものまで登場しました。
お囃子が一つのメロディーではなく、名前を持つ複数の曲を受け継ぐ音楽だと分かります。
曲が変わると、何が変わる?
演奏する曲が変われば、笛の旋律や太鼓のリズムも変わります。
同じ曲の中でも、演奏の進行や舞との関係によって、リズムの感じ方が変わることがあります。
ただし、「速くなったら必ず山車が動く」「この曲は必ず山車同士が出会う合図」といった決まりが、入間万燈まつりのすべての団体にあるわけではありません。
曲の選び方や切り替え方は、それぞれの流儀や演奏の場面によって異なります。
音楽の変化
曲が切り替わることで、旋律やリズムの組み立てが変わる。
演奏の変化
同じ曲でも、奏者の間合いや舞との組み合わせで印象が変わる。
初めて聴く人がすべての曲名を当てるのは、なかなか難しいもの。
でも、曲名を知らなくても楽しむ方法があります。
変化する前の音と、変化した後の音を比べること。
笛が長く伸びるのか、細かく区切れるのか。太鼓の音が規則的に感じられるのか、複雑に重なって聞こえるのか。
この違いだけでも、耳はずいぶん忙しくなります。
3.音だけじゃなかった!なぜ山車の上で人が踊っている?

お囃子をじっくり見ていると、楽器を演奏する人以外にも目がいきます。
山車の上で、お面をつけて踊っている人たちです。
2015年の入間万燈まつりを記録した「フォトさいたま」には、笛・鉦・太鼓に合わせて、ひょっとこ、おかめ、狐の面をつけた踊りが披露された様子が紹介されています。[4]
なぜ、音楽に踊りがつくのでしょう。
それは、お囃子が単に耳で楽しむものではなく、舞と組み合わさる芸能でもあるからです。
笛や太鼓がつくる音楽に対して、舞い手は体の動きで応えます。
手を広げる、顔を傾ける、足を動かす。お面をつけていると顔の表情は変わりませんが、体の向きやしぐさによって、見る人にさまざまな印象を与えます。
同じお面なのに、妙に表情豊か。
考えてみれば不思議です。
だから山車を見るときは、音が鳴っている場所だけでなく、その音に合わせて誰が、どんな動きをしているのかにも注目してみてください。
山車を見つけたら、この順番で観察
- まず笛の音を探す。どんな旋律が聞こえる?
- 次に太鼓のリズムを意識する。
- 金属的な鉦の音を聞き分ける。
- 最後に舞い手を見る。音と動きはどう重なっている?
すると、ただにぎやかに見えていた山車が、音楽と踊りを一体にした小さな舞台として見えてきます。
ところが、入間のお囃子には、もう一つ面白い話があります。
その音楽が、最初から入間だけで生まれたものとは限らないのです。
4.入間のお囃子が、実は川越から伝わっていた?

ここで、入間市の文化財に目を向けてみましょう。
入間市には、市指定無形民俗文化財の「高倉ばやし」があります。
市の文化財解説によると、このお囃子は江戸時代末期、川越の新宿(あらじゅく)連から伝えられた屋台囃子です。
流儀は「神田若狭流」。他の流儀には少ない威勢のよい演技が特徴とされています。2004年6月1日に市の無形民俗文化財に指定されました。[1]
つまり、現在の入間で受け継がれている芸能に、川越とのつながりが記録されているのです。
川越の新宿連から、高倉へ屋台囃子が伝えられました。
狭山市の菅原囃子連が、入間市の高倉囃子を習って結成されました。
高倉ばやしが、入間市指定無形民俗文化財になりました。
特に面白いのは、1966年の出来事です。
狭山市の菅原囃子を紹介する市の資料には、昭和41年1月19日に、菅原町内の有志が入間市の高倉囃子を習って囃子連を結成したと記されています。[3]
川越から入間へ。そして、入間から狭山へ。
少なくとも、この伝承の道筋は自治体の資料から確認できます。
もちろん、現在の各団体がまったく同じ曲を、まったく同じ方法で演奏しているという意味ではありません。
長い年月の中で、地域ごとの伝え方や演技の特徴が生まれます。
似ている音と、違っている音。その両方に意味がありそうです。
同じ地域でも、流儀は一つではない
入間市の賀美町囃子連については、2019年の半纏製作を紹介する染物業者の記録に「神田囃子隠岐流」との記載があります。[5]
高倉ばやしの「神田若狭流」とは、異なる流儀の名前です。
ここで大切なのは、流儀が違うからといって、優劣があるわけではないということ。
受け継がれてきた音楽や演技の違いが、地域の個性として現れます。
高倉ばやしの伝来・流儀は入間市の文化財資料、菅原囃子の成立と曲目は狭山市の資料で確認できます。賀美町囃子連の流儀は2019年の業者記録に基づきます。
これらは各芸能の背景を示すもので、2026年の万燈まつりへの出演や当日の演奏曲目を保証する資料ではありません。
5.山車同士が向かい合うと、なぜあんなに盛り上がる?

入間万燈まつりの見どころの一つが、「山車のひっかわせ」です。
山車同士が向かい合い、お囃子や舞を披露する場面を指します。
一台の山車だけでもにぎやかなのに、何台も集まればどうなるでしょう。
笛が重なり、太鼓が響き、鉦の音もあちこちから聞こえてきます。
2015年の祭りの記録でも、夜のひっかわせで山車が集まり、囃子の音が響き合う様子が紹介されています。[4]
ここで覚えておきたいのは、ひっかわせが単なる音量競争ではないことです。
山車ごとのお囃子と舞を、同じ場所で見比べられる機会でもあります。
一台ずつ見ていると気づきにくい違いも、複数の山車が向かい合うことで分かりやすくなります。
たとえば、太鼓の打ち方、笛の聞こえ方、舞い手のしぐさ。
同じ祭りの中なのに、山車ごとに少しずつ雰囲気が違うかもしれません。
ひっかわせを見る前に、ここまでのお囃子の仕組みを知っておくと、にぎやかさの中から違いを探す楽しみが生まれます。
2026年は、いつ聴ける?
第46回入間万燈まつりの2026年版開催案内では、主な見どころとして次の時刻が紹介されています。[6]
| 日付 | 時間 | 催し |
|---|---|---|
| 10月24日(土) | 17:45~ | 入間祝行列 |
| 10月24日(土) | 19:15~ | 夜の山車のひっかわせ |
| 10月25日(日) | 15:45~ | 山車のひっかわせ |
各団体がどの曲を何時に演奏するかについては、公開資料から確定できませんでした。
また、現地の天候や運行状況などにより、予定が変更されることがあります。
お囃子をじっくり聴きたいなら、ひっかわせの直前だけでなく、山車が巡行している時間帯にも注目してみるのがおすすめです。
6.実は「万燈囃子」という別の音楽もある?
ここまで、地域に古くから伝わる祭り囃子を見てきました。
しかし、入間万燈まつりには、もう一つ知っておきたい音楽があります。
その名前は、「万燈囃子」。
2015年の万燈まつりを記録した「フォトさいたま」によると、万燈囃子は入間市の市制20周年を記念して作曲されたものです。[4]
入間市は1966年に市制を施行したため、市制20周年は1986年に当たります。
江戸時代から伝わるお囃子がある一方、市の節目を記念して新たに作られたお囃子もある。
これが、入間万燈まつりの面白いところです。
ただ古いものを残すだけではなく、新しい市民文化も積み重なってきたことが分かります。
「お囃子」と聞くと、どれも大昔から伝わっているように思いがちですが、成立した時代も、受け継がれてきた背景も同じとは限りません。
伝統の祭り囃子
地域の祭礼とともに、代々伝えられてきた音楽。高倉ばやしなど。
万燈囃子
入間市の市制20周年を記念して作曲された音楽。万燈踊りなど、祭りの行列を彩ってきました。
同じ祭りで耳にする音でも、その背景は一つではありません。
昔から続く地域の祭礼の音と、新しい市民祭りから生まれた音。
入間万燈まつりには、その両方が重なっています。
7.初めてでもできる!お囃子を3倍楽しむ聴き方
ここまで読んで、「曲名なんて覚えられない」と思った人もいるかもしれません。
大丈夫です。
曲名を一つも知らなくても、お囃子を楽しむことはできます。
音の聞き分け・3ステップ
- 一つの楽器だけを追いかける。 最初は笛がおすすめ。太鼓に隠れがちな旋律を意識してみましょう。
- 音楽の変化を探す。 リズムや旋律が変わったと感じたら、曲が切り替わったのか、演奏の展開が変わったのかを観察します。
- 別の山車と比べる。 ひっかわせでは、山車ごとの音色や舞の違いを探してみましょう。
特に子どもと一緒なら、「今、笛はどこで鳴っている?」「金属の音が聞こえる?」と声をかけてみるのも楽しそうです。
見た目の派手さだけでなく、耳で参加する祭りになります。
ただし、山車のすぐそばまで近づく必要はありません。巡行中の山車や引き手の動線には入らず、安全な観覧場所から楽しみましょう。
入間万燈まつり2026|お囃子を聴きに行くための基本情報
25日 9:15~16:45
2026年10月22日確認。雨天や運行状況により催しの時間・内容が変更される場合があります。
祭りの音が、少し違って聞こえてくる
最初は、笛の「ピーヒャラ」と太鼓の「ドンドン」が聞こえるだけだったかもしれません。
でも、その音には役割がありました。
笛が旋律をつくり、小太鼓と大太鼓、鉦がリズムを組み立てます。そして、その音に合わせて人が踊ります。
さらに調べてみると、川越から入間へ、入間から狭山へと伝わったお囃子の歴史がありました。
一方で、市制20周年を記念して新しく作られた万燈囃子もあります。
昔から伝わる音と、新しく生まれた音。どちらも、現在の入間万燈まつりを形づくる要素です。
今年、山車の前を通りかかったら、ほんの少し足を止めてみてください。
そして、ひとつの楽器の音を追いかけてみましょう。
にぎやかな祭りの音が、誰かから誰かへ受け継がれてきた音楽として聞こえてくるかもしれません。
参考資料・出典
お囃子の歴史や文化財に関する説明は、自治体の公開資料を優先して確認しました。祭りの実施情報については2026年の案内を使用しています。
- 入間市|63 高倉ばやし 入間市教育委員会・文化財解説 資料を確認する
- 狭山市|西方囃子 楽器構成・伝承曲目について 資料を確認する
- 狭山市|菅原囃子 高倉囃子からの伝承・結成年・曲目について 資料を確認する
- フォトさいたま|入間万燈まつり 2015年10月24日の記録。ひっかわせ、舞、万燈囃子の説明 記録を見る
- somecco|賀美町囃子連(半纏) 2019年掲載。団体の流儀に関する記述 記録を見る
- 入間万燈まつり公式サイト・2026年開催案内 第46回の開催日・行列・山車・ひっかわせ情報 公式サイトを見る
- 入間市|いるままつり歳時記 高倉囃子や地域祭礼、入間万燈まつりの文化的背景 資料を確認する
最終情報確認:2026年10月22日
編集注:各保存団体の2026年の演奏曲順・演奏時刻は確認できていません。曲目の紹介は地域の伝承資料に基づくもので、当日の演奏内容を示すものではありません。