
あのファミリーマート、実は入曽から始まった。
しかも1号店には、お弁当もおにぎりもなかった。
全国の街角で見かける、緑と青の看板。ファミリーマートといえば、おにぎりを買ったり、コーヒーを飲んだり、公共料金を支払ったり。
そんな身近なお店の原点が、埼玉県狭山市の入曽にあると聞いたら、ちょっと気になりませんか。
しかも、1973年に生まれた最初の店舗には、今やコンビニの主役ともいえるお弁当も、おにぎりもなかったというのです。
……それで、何を売っていたのでしょう。
答えは、野菜、肉、魚などの生鮮食品を中心とした、およそ1,100品目。
今のファミリーマートを想像していたら、いきなり魚売り場が登場しました。どうやら当時の「便利なお店」は、私たちが思うコンビニとは少し違っていたようです。 [1]
では、なぜそんなお店が入曽に生まれたのでしょうか。そして、50年以上たった今も、この街に1号店の歴史が残っているのはなぜなのでしょう。
なぜ全国チェーンの始まりが、狭山市の入曽だった?

まず意外なのは、ファミリーマートの最初のお店をつくったのが、現在の私たちが知っているファミリーマートという会社ではなかったことです。
1973年9月、埼玉県狭山市に開店したのは、西友ストアーが手がけた小型店の実験第1号店でした。 [2]
実験、という言葉が気になります。
当時は、今のようなコンビニエンスストアが全国に当たり前にある時代ではありません。スーパーよりも小さなお店で、地域の人たちに何を、どのように売るのか。新しい小売店の形を試していたのです。
実際、ファミリーマートの沿革をたどると、1972年9月には西友ストアーの企画室に小型店担当が設置され、その翌年に狭山市で実験第1号店が誕生したことが分かります。 [3]
入曽の1号店は、完成されたコンビニチェーンの出発点というより、まだ完成形が決まっていなかった新しいお店の試験場だったのです。
ただし、なぜ狭山市水野のこの場所が実験地に選ばれたのか。その選定理由までは、今回確認した公式沿革には詳しく書かれていません。
それでも、当時の店の姿を知ると、地域で試そうとしていた便利さの中身が少し見えてきます。
お弁当もおにぎりもなし。それでコンビニだったの?

現代のコンビニを思い浮かべると、まず浮かぶのは食べ物かもしれません。
おにぎり、サンドイッチ、お弁当、ホットスナック。
ところが、1973年のファミリーマート1号店では、そうした現在の定番商品が中心ではありませんでした。
公式の歴史紹介によると、当時の主役は青果、精肉、鮮魚、冷蔵品、加工食品。扱っていた商品は約1,100品目にのぼります。 [1]
野菜・肉・魚
冷蔵食品・加工食品
日用品など
約1,100品目
お弁当・おにぎりは当初なし。営業時間は10時〜18時で、木曜定休。
おにぎり・お弁当
パン・惣菜・飲み物
日用品
ATM・各種サービスなど
商品・サービスや営業時間は店舗によって異なります。
さらに驚くのが、営業時間です。
埼玉新聞の2024年の取材によると、最初の店舗の売り場は20数坪。営業時間は午前10時から午後6時までで、木曜日はお休みでした。 [4]
24時間営業ではありません。
夕方6時には閉店です。
夜中にアイスを買いに行くことも、仕事帰りの深夜にお弁当を探すこともできません。
それでも、近所で食料品や日用品をまとめて買える小さなお店は、地域にとって便利な存在だったのでしょう。
同紙の取材では、現在の店舗を長年営んできたオーナーが、当時は駅前に行かなければ店がなかったため、近隣住民が食品スーパーのように毎日利用していたと振り返っています。 [4]
なるほど。ここで「便利」の意味が変わってきました。
今のコンビニは、時間の便利さが大きな魅力です。一方、当時の入曽店では、日々の買い物ができる場所が近くにあること自体が、重要な便利さだったと読み取れます。
では、いつから私たちの知っているファミリーマートになっていったのでしょう。
「狭山店」が「入曽店」に。名前まで変わっていた

最初のお店には、もう一つ意外な点があります。
現在の名前は「ファミリーマート入曽店」ですが、開店した1973年の店名は「ファミリーマート狭山店」でした。 [4]
つまり、名前も、売っている商品も、営業の仕組みも、最初から今の形だったわけではないのです。
その変化を、少しだけ時間順にたどってみましょう。
西友ストアーが小型店舗の実験として「ファミリーマート狭山店」を開業。食料品中心の店から物語が始まりました。
西友ストアーにファミリーマート事業部が発足。4月には実験第1号店がフランチャイズ店舗に転換されます。フランチャイズとは、加盟店がチェーンの仕組みを利用して店舗を運営する方式です。
西友ストアーから事業を引き継ぐ形で、株式会社ファミリーマートが事業を開始。1973年の1号店開店から8年後のことでした。
鈴木夫妻が店舗経営を引き継ぎ、店名は「狭山店」から「入曽店」へ。地域の名前を掲げた店舗となりました。
売り場面積や駐車台数を広げるため、近くの新しい場所で営業を開始しました。
年表の出典:ファミリーマート公式沿革・公式FAQ・埼玉新聞。 [2] [3] [4]
ここで一つ、間違えやすいことがあります。
ファミリーマートの最初の実験店は入曽ですが、一般募集によるフランチャイズ1号店は、1978年に千葉県船橋市で開かれました。 [3]
同じ「1号店」でも、何の1号店なのかによって場所が違うのです。
入曽は、ファミリーマートという店舗ブランドが最初に試された場所。船橋は、その後のチェーン展開の仕組みを広げていくうえでの別の節目でした。
そして1981年に、会社としてのファミリーマートが誕生します。
店舗の誕生が先で、会社の誕生が後。
この順番を知ると、入曽の小さなお店が、単なるチェーンの1店舗とは違う存在に見えてきます。
では、なぜ1号店は50年以上も続いたのか?

実験店舗として始まったお店が、50年以上にわたって営業を続ける。
これも考えてみると、なかなか不思議です。
実験が終わったら、役割も終わりそうなものです。
けれども、入曽店はそうなりませんでした。
埼玉新聞の2024年の取材では、1985年から店を引き継いだ鈴木夫妻の歩みが紹介されています。
近隣に競合する店舗が次々と進出するなか、売り場の小ささという制約を抱えながらも、卵や牛乳など、地域の暮らしで必要とされる商品をそろえてきたといいます。 [4]
全国チェーンの歴史を調べていたはずなのに、ここで急に、ご近所の買い物の話に戻ってきました。
でも、考えてみれば自然なことかもしれません。
1号店という肩書きがあっても、毎日利用する人にとって大事なのは、その日の暮らしに必要なものが手に入るかどうか。
実験で始まった店が長く続いた背景には、地域の需要に合わせて営業してきた積み重ねがありました。
最初の「便利」を探す実験は、店が地域に合わせて変わっていく日常へとつながっていったのです。
そして2024年、1号店が100m動いた

さて、入曽にある1号店を見に行こうと思った方に、大切なお知らせがあります。
現在のファミリーマート入曽店は、1973年に開店した当初と同じ場所ではありません。
2024年4月23日、店舗は以前の場所から約100m離れたところへ移転オープンしました。
埼玉新聞によると、移転の目的は売り場面積と駐車台数の拡大。長年使われてきた店舗の規模を広げるための移転でした。 [4]
50年以上の歴史を持つ店が、場所を変えたのです。
ただし、ここで区別したいのは、歴史が続いていることと、建物が当時のまま残っていることは別だという点です。
今の店に1973年の売り場や建物がそのまま残っているわけではありません。
当時の20数坪の食品中心の店から、現在のコンビニエンスストアへ。そして2024年には、より大きな店舗へ。
同じ「入曽店」という歴史のなかで、お店の姿は何度も変わってきました。
そう考えると、移転そのものも、最初から続く変化の一つとして見ることができます。
今のファミリーマート入曽店はどこにある?
1号店の歴史を受け継ぐ現在の入曽店は、西武新宿線・入曽駅から歩いて行ける場所にあります。
ただし、駅前にある「ファミリーマート入曽駅前店」とは別の店舗です。
名前が似ているので、訪ねる場合は「入曽店」で検索するのが確実です。
- 店名
- ファミリーマート入曽店
- 所在地
- 埼玉県狭山市水野422-6
- 最寄り駅
- 西武新宿線・入曽駅
- アクセス
- 入曽駅西口から徒歩約10分(地図サービスの目安)
- 営業時間
- 24時間営業(2026年10月確認時の掲載情報)
- 電話番号
- 04-2958-0121
- 移転日
- 2024年4月23日
店舗所在地・営業時間・アクセスの出典:Yahoo!マップ掲載情報。来店前に最新の営業状況をご確認ください。 [5]
現在の場所を地図で見ると、特別な観光施設というより、生活道路沿いにある一軒のコンビニです。
でも、今回の話を知ってから見ると、そこが少し面白くなります。
お弁当もおにぎりもなかった時代に、新しい店の形を試した場所。その歴史を引き継ぎながら、今も地域の買い物を支えるお店なのです。
いつもの緑と青の看板が、少し違って見える
ファミリーマートの1号店に、おにぎりがなかった。
最初は、ちょっとした意外な話に思えました。
でも、その理由をたどると、1973年の人たちが必要としていた便利さが見えてきました。
夜中にお弁当が買える便利さではなく、近所で野菜や肉、魚を買える便利さ。
小さな売り場で始まった実験は、会社の設立よりも前に生まれ、地域の需要に合わせて姿を変え、2024年には新しい場所へ移りました。
つまり、ファミリーマートの歴史は、最初から完成された便利さが全国に広がった物語ではありません。
人々の暮らしにとって、何が便利なのか。それを探し続けてきた歴史でもあるのです。
今度、入曽のファミリーマートでおにぎりを手に取ったら、少しだけ思い出すかもしれません。
かつて、この場所から始まったお店には、そのおにぎりがなかったことを。
そして、全国の街角で見慣れたあの看板の出発点が、西武線沿線の入曽にあったことを。
参考資料・出典
この記事は、ファミリーマートの公式沿革・公式FAQ・公式採用サイトの歴史紹介、および2024年の店舗移転を取材した新聞記事などを照合して作成しました。現地での独自取材を行った記事ではありません。
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ファミリーマート「40年にわたる挑戦の軌跡」
発行:株式会社ファミリーマート(採用サイト)
公開日:2022年6月30日
1973年の1号店開店時の商品構成、約1,100品目、お弁当・おむすびがなかったことを確認。
https://recruit-student.family.co.jp/article/000046.html -
「ファミリーマートの1号店ができたのはいつですか?」
発行:株式会社ファミリーマート(公式FAQ)
1973年に西友の小型店実験第1号店として狭山市に開店したこと、1978年の事業部発足、1981年の会社設立につながる経緯を確認。
ファミリーマート公式FAQ -
「ファミリーマートのあゆみ」および過去の公式沿革資料
発行:株式会社ファミリーマート
1973年9月の第1号店、1978年のフランチャイズ展開、1981年の会社設立などを確認。
ファミリーマートのあゆみ
公式沿革掲載資料(PDF) -
「埼玉にあった国内コンビニ第1号店『ファミリーマート入曽店』、50年以上も営業し話題」
発行:埼玉新聞
公開日:2024年4月26日
創業当時の売り場規模・営業時間、旧店名、オーナーの証言、2024年4月23日の移転について確認。
埼玉新聞の記事を確認 -
「ファミリーマート 入曽店」店舗情報
掲載:Yahoo!マップ
現在の店舗住所、入曽駅からのアクセス目安、営業時間、電話番号を確認。
Yahoo!マップ店舗情報
情報確認日:2026年10月30日。歴史上の事実と、現在の店舗所在地・営業情報は区別して記載しています。営業情報は変更される場合があります。