
東村山市美住町|くめがわ電車図書館
この電車の行き先は、
本の世界。
団地の中に、黄色い西武電車が1両。駅でも車庫でもない場所で、何をしているのでしょう。
答えは、地域の人たちが運営する「くめがわ電車図書館」。つり革や座席が残る車内に約5,000冊の本が並び、座席に腰掛けて読書ができます。[1][2]
けれど、面白いのは見た目だけではありません。その始まりをたどると、団地で暮らす人たちが、自分たちで子どもの読書の場所をつくった歴史が見えてきます。
始まりは「子どもたちが使える場所がほしい」
くめがわ電車図書館が始まったのは1967年(昭和42年)。東村山市に、まだ市立図書館がなかったころです。地域住民が運営を担い、子どもたちと本をつなぐ場所になりました。[3]
ここで知っておきたいのが「地域文庫」という言葉です。地域の人たちが本を集め、読む場所や貸し出す仕組みをつくる活動のこと。大きな建物がなくても、子どもたちが本と出会う場所を用意しようという取り組みです。
最初から「電車を図書館に」と決まっていたわけではない
地域メディア「リンジン」が2025年に掲載した運営者への取材によると、出発点は、団地で子どもたちが使える施設を求める声でした。住宅公団が引退した西武鉄道の車両を導入することになり、当初は遊び場にする案もあったといいます。
その後、初代代表の川島恭子さんらが日野の図書館を見学し、車両を地域文庫にする方向へ。近くの書店の協力で、最初にそろえた本は250冊だったそうです。これは開設時の様子を、長年活動するボランティアが伝え聞いた話として紹介されています。[4]
「なぜ団地に電車があるの?」の答えは、車両の保存だけでは説明できません。団地の子どもたちに必要な場所をつくろうとしたとき、その入れ物になったのが電車だったのです。
1967年からある。でも、黄色い電車は2代目
長い歴史を知ると、「この黄色い電車が、ずっとここにいたのかな」と思うかもしれません。実は、現在の車両は2代目です。図書館の始まった年と、今の車両が置かれた年は違います。[3]
「リンジン」の取材では、初代は赤とベージュの車両。1991年に団地の建て替えで撤去されることになり、その後はプレハブで活動を続け、2001年に現在の黄色い車両で再開したと紹介されています。[4]
一方、西武鉄道の紹介によると、今使われているのは2000年に引退した車両です。人を運ぶ役目を終えた翌年、本を読む場所として新しい役目を持ったことになります。[2]
受け継がれたのは、車両だけではありません。
電車が使えない間にも活動が続いたことから、この場所の中心にあったのは「車両を残すこと」だけでなく、「子どもと本のつながりを途切れさせないこと」だったと読み取れます。
つり革の下に本棚。座席は、そのまま読書席に
車内では、電車らしさと図書館らしさが同居しています。つり革や座席が残り、中央には本棚。運転席も残されており、かつて人を乗せて走った車両のつくりを感じられます。[1]
本は絵本や児童書が中心。西武鉄道は、窓に沿って長く続く座席「ロングシート」に座り、読書を楽しめる場所として紹介しています。電車の席に座って本を開くのに、降りる駅を気にしなくていい。そんな読書ができるわけです。[2]
本は、地域の人たちが選んでいる
「リンジン」の取材では、ボランティアが会議で本を選び、貸し出しや整理、読み聞かせ、清掃なども担っていると紹介されています。本が置かれているだけでなく、人の手で日々使える場所に保たれています。[4]
鉄道好きなら座席やつり革から、本好きなら並んだ本から。入り口は違っても、同じ1両の中で楽しめるのが、この図書館の面白さです。
中に入れるのはいつ?水曜・土曜の午後が基本
訪ねるときに気をつけたいのは、毎日開いている施設ではないこと。2026年2月4日更新の「たまろくナビ」では、水曜日・土曜日の14:00〜16:30が開館時間です。祝日・休日に当たる日は休館で、夏休み・冬休みもあります。[1]
| 所在地 | 東京都東村山市美住町1-4-1 |
|---|---|
| 開館の基本 | 水曜・土曜 14:00〜16:30 祝日・休日、夏休み・冬休みは休館に注意 |
| 利用料 | 無料。本の貸し出しには会員登録が必要 |
| 徒歩で行く | 西武多摩湖線「八坂駅」から約10分 西武新宿線「久米川駅」南口から約15分 |
| 駐車場 | なし |
| 問い合わせ | 東村山市立中央図書館 042-394-2900 |
所在地・開館時間・アクセスは「たまろくナビ」、無料利用・貸し出し時の登録は西武鉄道の案内を参照。徒歩時間は目安です。西武鉄道の掲載情報は2024年6月時点のため、登録方法などの詳細は事前にお問い合わせください。[1][2]
団地の住民でなくても利用できる?
西武鉄道は、誰でも自由に利用できる場所として案内しています。団地の住民専用という紹介ではないので、まず車内で本を読むことと、登録して本を借りることを分けて考えると分かりやすいでしょう。[2]
訪問前は、休館のお知らせを確認。
案内サイトには水曜午前の時間帯を載せたものもありますが、この記事では2026年更新の行政広域サイトが示す午後の時間帯を採用しています。臨時休館や長期休みは、東村山市の施設案内、または中央図書館への問い合わせで確かめてください。
ここは住宅地の中にある、子どもたちが普段使う読書の場所です。見学や写真撮影では読書の妨げにならないようにし、車内を撮るときはスタッフに声をかけ、人の写り込みにも配慮しましょう。
走らなくなっても、人と本をつないでいる
団地の黄色い電車は、引退した車両の置き場所というだけではありません。市立図書館がなかった時代に始まり、車両が交代しても続いてきた、地域の読書の場所です。
つり革が残っているのは、電車だったころの記憶。本棚があるのは、その後に生まれた役目。その両方を知ると、止まっている1両が、長く働き続けている電車に見えてきます。
電車の来歴を知ったら、駅の「なぜ」も
行き帰りに使う八坂駅や久米川駅にも、普段の景色だけでは分からない話があります。黄色い電車の背景を知ったあとなら、駅や線路を見る目も少し変わりそうです。