
『ドラえもん』に『クレヨンしんちゃん』。アニメといえば、テレビや映画館、あるいは動画配信サービスを思い浮かべる人が多いでしょう。
ところが杉並区には、アニメをただ観るのではなく、「どうやって動かすのか」「どうやって声を入れるのか」まで体験できる博物館があります。
その名も「東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム」。
しかも入館無料。アニメシアターの上映も無料です。一部のワークショップでは材料費などが必要になる場合がありますが、常設展示を楽しむだけなら入館券を買う必要はありません。[1]
これは、なかなか太っ腹です。
ただ、ここで一つ疑問が浮かびます。
なぜアニメの博物館が、杉並区にあるのでしょうか。秋葉原でも池袋でもなく、杉並区。それには、街の成り立ちとアニメ産業の意外な関係がありました。
なぜ杉並区に、アニメの博物館があるの?

最初の手掛かりは、杉並区に集まるアニメ制作会社の数です。
杉並アニメーションミュージアムの公式FAQでは、日本動画協会の調査を引用し、全国811社のアニメーション制作関連会社のうち、149社が杉並区にあると紹介しています。
全国の市区町村で最も多いとされる数字です。ただし、これは過去の調査に基づく数値であり、2026年現在の会社数を示すものではありません。[1]
149社。
アニメの会社が多いとは聞いても、数字にしてみると、なかなかの密集ぶりです。
杉並区には、『機動戦士ガンダム』を生み出したサンライズにつながる企業や、『ソードアート・オンライン』などで知られるA-1 Picturesをはじめ、さまざまなアニメ制作関連会社が集まっています。
つまり杉並区は、アニメを楽しむ街である以前に、アニメを作る人たちが仕事をしてきた街なのです。
博物館ができた理由は、観光だけではなかった
ミュージアムが開館したのは2005年3月5日。
杉並区は当時からアニメ制作関連会社が多く集まる地域で、アニメを大切な地場産業、つまり地域に根付いた産業として位置付けていました。
そこで、アニメ産業を支える取り組みの一つとして誕生したのが、杉並アニメーションミュージアムです。[1]
なるほど。単にアニメファンを集めるための観光施設ではなく、街に根付いた仕事や文化を広く伝えるための施設だったのです。
しかも、日本動画協会はこのミュージアムを、日本初の総合体験型アニメ展示施設として紹介しています。[2]
では、その博物館はどのようにしてアニメ制作の世界を伝えているのでしょう。
アニメを観る場所なのに、なぜ机や道具が展示されている?
アニメの博物館と聞くと、キャラクターのフィギュアやポスターがずらりと並ぶ光景を想像しがちです。
もちろん、ここにも作品に関する展示があります。
しかし、常設展示ではアニメ制作に関わる監督、作画監督、美術監督の机を再現し、セルアニメーションが作られる過程も紹介しています。[3]
キャラクターではなく、机。
ちょっと地味に思えるかもしれません。でも、この机こそ、アニメを観る側から作る側へと視点を切り替える手掛かりです。
完成した映像では、キャラクターが自然に走ったり、笑ったり、振り向いたりします。
けれど、その動きは最初から存在しているわけではありません。絵を描き、動きの順番を考え、背景や声、音を組み合わせて作られています。
普段は完成した作品だけを見る私たちにとって、制作机はその裏側を想像する入口になります。
そもそも、動かない絵はなぜ動いて見える?
ミュージアムには、ゾートロープなどを使ったアニメの原理を体験できる展示もあります。
ゾートロープは、少しずつ違う絵を連続して見せることで、絵が動いているように感じられる仕組みです。
ほかにも、写し描きやコマ撮りといったアニメ制作の基本を体験できます。[3]
例えば、紙に描いた人物の腕を少しずつ変えた絵を並べ、順番に素早く見せると、腕を上げているように見えます。
一枚一枚は、まったく動いていないのに。
アニメの魔法のような動きは、実は小さな違いの積み重ねから生まれているわけです。
好きな作品を「観る」だけでなく、作り手がどんな工夫をしているのか「試して理解できる」のが、この施設ならではの楽しみ方です。
そして、絵の動きを理解したところで、もう一つ気になるものがあります。
キャラクターが話す声です。
声優になれる?アフレコ体験までできる理由

絵が動いても、声がなければ会話は生まれません。
そこで登場するのが、アフレコ体験コーナーです。
アフレコとは、映像に合わせて声やせりふを収録する仕事のこと。ミュージアムでは、声優の仕事に挑戦できる体験展示が用意されています。[3]
画面の中の人物に自分の声を重ねる。
普段は何気なく聞いているアニメのせりふも、映像のタイミングに合わせようとすると、違った難しさが見えてきそうです。
ここで分かるのは、アニメが絵を描くだけでは完成しないということ。
絵を動かす技術と、声で人物を表現する技術。いくつもの仕事が組み合わさって、私たちの知っているアニメになります。
自分でアニメを作ることもできる

公式FAQでは、自分で描いた絵を撮影してアニメにする「パラパラアニメ」コーナーも案内されています。
通常の開催案内は開館日の10時30分から17時まで。ただし、イベントなどによって休止する場合があります。[1]
完成した作品を観るだけだった人が、今度は自分で一つの動きを作ってみる。
小さな体験ですが、アニメの見方が変わるきっかけになりそうです。
ちなみに、ここは実際のテレビアニメを制作しているスタジオではありません。アニメの仕組みや作り方を学ぶための施設です。この違いも覚えておきたいところです。
それなら、なぜ名前に「東京工芸大学」が付いている?
施設名をもう一度見てみましょう。
「東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム」。
大学の付属博物館なのでしょうか。
実は、少し違います。
このミュージアムは杉並区の施設です。2018年9月1日から、学校法人東京工芸大学とのネーミングライツ協定によって、現在の通称名が使われています。[1]
ネーミングライツとは、施設などに名前を付ける権利のこと。
つまり、東京工芸大学が名前に入っていても、大学のキャンパス内にあるという意味ではありません。
開館した2005年から大学名が付いていたわけでもないのです。
杉並区の施設として杉並アニメーションミュージアムが開館。
東京工芸大学とのネーミングライツ協定により、現在の通称名へ。
常設展示に加え、シンエイ動画50周年展などの企画展を開催。
名前の不思議も解けました。
大学の名前を持ちながら、地域の産業や文化を伝える区立の博物館。施設の成り立ちを知ると、この組み合わせにも納得できます。
『ドラえもん』も『クレヨンしんちゃん』も。2026年はシンエイ動画50周年展

常設展示でアニメの作り方を知ったら、今度は実際の作品に目を向けてみましょう。
2026年10月27日現在、ミュージアムでは「シンエイ動画50周年展」が開催されています。
シンエイ動画といえば、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』で知られるアニメ制作会社です。
2026年に設立50周年を迎えることを記念し、長年にわたり制作されてきた作品を振り返る企画展となっています。[4]
シンエイ動画50周年展
開催期間:2026年7月25日(土)〜11月29日(日)
前期:7月25日〜10月4日(終了)
後期:10月6日〜11月29日
入館料:無料(シアターを含む)
※月曜休館(祝日の場合は開館し翌平日休館)。臨時休館等にご注意ください。展示内容・上映内容は公式サイトでご確認ください。
50年分のアニメを見ると、何が分かる?
今回の企画展では、前期と後期で展示の一部が入れ替わります。
現在の後期展示では、『ドラえもん』をはじめ、『美味しんぼ』『おぼっちゃまくん』などの作品が紹介されています。
さらに『PUI PUIモルカー』や『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』など、2020年代の作品にも触れられます。[4]
『ドラえもん』と『美味しんぼ』と『PUI PUIモルカー』。
並べてみると、ずいぶん違う作品です。
子ども向け作品から食を題材にした作品、現代の多様な表現まで。同じ制作会社の歴史の中に、これほど幅広いアニメが並んでいることが分かります。
企画展では作品紹介のパネルに加え、歴代作品のビジュアルを並べた幅3.6メートルの年表や、制作途中の資料なども紹介されています。
好きだった作品が「いつの時代に作られたのか」を確かめると、アニメの歴史が自分の記憶とも重なってきます。
そして、常設展示で見た作り手の机を思い出してみてください。
何十年にもわたる作品の一つひとつが、誰かの作画や演出、声や音の仕事から生まれている。
博物館の中で、制作の仕組みと作品の歴史がつながります。
ここまで体験できて、なぜ無料なの?
常設展示があり、制作体験があり、企画展があり、アニメシアターまである。
ここまで聞くと、やはり気になるのが料金です。
ミュージアムの入館料は無料。企画展もアニメシアターも、入館料はかかりません。一部のワークショップでは材料費などが発生する場合があります。[1]
なぜ無料で運営できるのか、その詳しい収支構造まで公式の施設案内だけで判断することはできません。
ただ、これまで見てきたように、この施設は地域のアニメ産業を支える取り組みとして杉並区が開設したものです。
その役割は、作品を展示してチケットを販売することだけではありません。
子どもから大人までがアニメの歴史や制作技術に触れられる場所として、アニメ文化を広く伝える役割も担っています。
「無料だから小さな展示しかないだろう」と思っていたら、制作机やアフレコ体験まである。
この施設の成り立ちを知ると、その意外さも少し違って見えてきます。
西武線からどう行く?上井草駅・石神井公園駅からアクセス

東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアムがあるのは、杉並区上荻の「杉並会館」3階です。
西武線沿線からなら、西武新宿線の上井草駅、または西武池袋線の石神井公園駅からバスで向かう方法が案内されています。[5]
| 施設名 | 東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム |
|---|---|
| 住所 | 東京都杉並区上荻3-29-5 杉並会館3階 |
| 開館時間 | 10:00〜18:00 最終入館17:30 |
| 休館日 | 月曜日(祝日は開館し翌平日休館)、年末年始12月28日〜1月4日、その他臨時休館あり |
| 入館料 | 無料 一部ワークショップは材料費等が必要な場合あり |
| 電話 | 03-3396-1510 |
| 駐車場 | 専用駐車場なし |
| 公式サイト | 杉並アニメーションミュージアム |
※施設案内は2026年10月27日確認。休館やプログラム変更の可能性があるため、来館前に公式情報をご確認ください。
西武新宿線・上井草駅から
上井草駅からは、荻窪駅方面へ向かう西武バスを利用できます。
公式案内では、バスで約7分、「荻窪警察前」下車後、徒歩約5分です。
ただし、荻窪駅行きでも「荻窪警察前」を通らないルートがあります。乗車前に行き先と経由地を確認しましょう。[5]
西武池袋線・石神井公園駅から
石神井公園駅南口からは、上井草駅経由の荻窪駅行き西武バスを利用できます。
公式案内ではバス約20分、「荻窪警察前」下車後、徒歩約5分となっています。
JR・東京メトロから
荻窪駅北口からは関東バスで約5分、「荻窪警察署前」下車後徒歩約2分。駅から徒歩なら約20分です。
JR西荻窪駅北口からは徒歩約16分。バスを利用する場合は約7分で「荻窪警察署前」に到着し、そこから徒歩約2分です。
バスの時刻や停留所の運用は変更される場合があります。公式アクセス案内もあわせて確認してください。
見学時間はどれくらい必要?
ミュージアムの公式FAQでは、展示を見るだけなら1時間程度が目安とされています。
一方、アニメを観たり、資料を読んだり、制作を体験したりすれば、より長い時間楽しめます。[1]
作品を見るのが好きなら企画展をじっくり、仕組みを知りたいなら制作体験を中心に。
好きな作品を入口にするか、アニメを作る仕組みを入口にするか。楽しみ方を選べる施設です。
杉並の住宅街にある博物館が、違って見えてくる
最初は、少し不思議でした。
なぜ杉並区にアニメの博物館があるのか。なぜ大学の名前が付いているのか。そして、どうして入館無料で、これほど幅広い体験ができるのか。
手掛かりをたどると、杉並区がアニメ制作会社の集まる街であり、2005年からその産業と文化を伝える施設を持っていたことが分かりました。
展示されている机も、アフレコ体験も、単なる珍しい展示ではありません。
普段は画面の向こう側に隠れている、アニメを作る人たちの仕事を見えるようにするもの。
そう考えると、杉並会館の中にあるこのミュージアムは、街とアニメをつなぐ場所に見えてきます。
いつも何気なく観ている一本のアニメ。その背景には、何枚もの絵と、たくさんの人の仕事がある。
そして、その仕事が日常の風景として根付いてきた街が、杉並区なのです。
次は、アニメと街がつながる駅へ
杉並区にアニメ制作会社が集まっていたことが分かったら、次は西武新宿線・上井草駅の風景を見てみましょう。
駅の発車メロディと、南口に立つガンダム像。そこにも、アニメを作っていた街ならではの理由が残っています。
参考資料・情報源
この記事は施設・自治体・関連団体の公開情報をもとに構成しています。公式情報の確認日は2026年10月27日です。過去の統計や施設の沿革は、対象時点を区別して記載しています。
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杉並アニメーションミュージアム|よくある質問
施設の目的、開館経緯、企業数、名称、料金、体験内容について。
https://sam.or.jp/faq
確認日:2026年10月27日 -
一般社団法人日本動画協会|東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム
2005年開館、総合体験型展示施設としての位置付け、館内体験について。
https://aja.gr.jp/jigyou/tenji/suginami
確認日:2026年10月27日 -
杉並アニメーションミュージアム|フロアガイド
制作机、アニメの原理、アフレコ体験、シアター、ライブラリー等について。
https://sam.or.jp/guide
確認日:2026年10月27日 -
杉並アニメーションミュージアム|企画展のご案内
シンエイ動画50周年展の会期、展示作品、企画内容について。
https://sam.or.jp/kikaku
確認日:2026年10月27日 -
杉並アニメーションミュージアム|アクセス
上井草、石神井公園、荻窪、西荻窪からの経路について。
https://sam.or.jp/access
確認日:2026年10月27日 -
杉並区|施設案内 東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアム
区立施設としての位置付け、展示構成、所在地、休館日について。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/s033/shisetsu/14524.html
確認日:2026年10月27日
情報確認:2026年10月27日|エキリプ編集部