
EKIRIP|西武新宿線・東伏見のアニメと街の物語
『美少女戦士セーラームーン』と、東伏見稲荷神社。 一見すると、少し意外な組み合わせです。
西武新宿線の東伏見駅から歩いて行ける東伏見稲荷神社。 大きな朱色の鳥居と、社殿の奥に続く小さな鳥居の道が印象的な場所です。
実はこの神社、2003年から2004年に放送された実写版『美少女戦士セーラームーン』の撮影場所として紹介されています。 ロケ地情報サイト「全国ロケ地ガイド」には、オープニングや最終話に登場した場所として名前が載っています。 [1]
なるほど。セーラームーンには神社に暮らす巫女のキャラクターがいました。 火野レイ、セーラーマーズです。
ということは、東伏見稲荷神社がレイの暮らす「火川神社」のモデルなのでしょうか。
ところが、調べてみると、話はそう単純ではありません。
東伏見稲荷神社は、実写版『美少女戦士セーラームーン』のロケ地として記録されている神社です。

一方、原作・アニメに登場する火川神社のモデルとして広く知られるのは、東京都港区の麻布氷川神社です。
「モデルになった場所」と「実際に撮影した場所」は、必ずしも同じではないのです。
そして、この違いをたどると、セーラームーンだけでなく、東伏見という街そのものに隠れた、もう一つの面白い話につながっていきます。
東伏見稲荷神社は、セーラームーンのどこに登場した?
まず探したいのは、作品と神社が実際に交わった場所です。
『美少女戦士セーラームーン』と聞くと、1992年に始まったテレビアニメを思い出す人も多いでしょう。 しかし、今回の手掛かりは、そのアニメではありません。
2003年10月4日から2004年9月25日まで放送された、実写特撮ドラマ版です。
主人公の月野うさぎを沢井美優さん、火野レイを北川景子さんが演じた作品。 原作は武内直子さんで、東映などが制作に関わりました。 [1] [2]
全国ロケ地ガイドでは、東伏見稲荷神社について、実写版のオープニングに登場する赤い鳥居のある神社として掲載されています。
さらに、2004年9月25日に放送された第49話についても、火野レイが子どもたちと遊んでいた赤い鳥居のある神社として、東伏見稲荷神社が挙げられています。 [1]
最終話にも、東伏見。
これは少しうれしい発見です。作品を知っている人にとって、普段の参道が、テレビの中に映った風景へとつながります。
どの作品を見ればいい?
対象は2003〜2004年放送の実写ドラマ版です。 ロケ地情報ではオープニングと第49話が挙げられています。 1990年代のテレビアニメや、2014年以降の『美少女戦士セーラームーンCrystal』と混同しないようにしましょう。
なお、撮影箇所の特定はロケ地情報サイトによるもので、制作会社による現地撮影の個別の公式発表までは確認できていません。
それなら、火野レイが暮らす「火川神社」も東伏見?

ここで、もう一つ気になることがあります。
セーラームーンの神社といえば、セーラーマーズこと火野レイが暮らす「火川神社」。 巫女としての日常と、セーラー戦士としての姿が交わる、作品を語るうえで大切な場所です。
赤い鳥居のある東伏見稲荷神社で撮影されていたのなら、ここが火川神社のモデルなのでしょうか。
ところが、ここで地図は都心へ移動します。
火川神社のモデルとして広く知られているのは、東京都港区元麻布にある麻布氷川神社です。 東京の街歩きメディア「Time Out Tokyo」でも、作品に登場する火川神社のモデルとされる場所として紹介されています。 [3]
麻布と東伏見。
電車でひと駅、という距離ではありません。 まったく別の地域です。
では、なぜ二つの神社がセーラームーンと結び付いているのでしょう。
東京都港区元麻布
原作・アニメに登場する「火川神社」のモデルとされる神社。
作品の舞台設定をたどるときの手掛かりです。
東京都西東京市東伏見
2003〜2004年の実写版で、オープニングや第49話の撮影地として紹介されている神社。
実写作品の映像をたどるときの手掛かりです。
つまり、二つの場所は、セーラームーンとのつながり方が違うのです。
物語の中に登場する架空の場所には、現実世界に参考となった風景があることがあります。 一方、実写ドラマを撮影するには、カメラを置き、俳優が演技する実際の場所が必要です。
その二つが、いつも同じ場所になるとは限りません。
もちろん、なぜ制作陣が東伏見稲荷神社を選んだのか、その具体的な選定理由までは確認できませんでした。 「鳥居が美しかったから選ばれた」と断定することもできません。
ただし、実写版のロケ地として伝えられる東伏見稲荷神社には、カメラで映したくなるような特徴があるのは確かです。
その特徴は、神社の奥へ進むと、さらによく分かります。
なぜ東伏見には、朱色の鳥居が何本も続いている?
東伏見稲荷神社の印象的な風景といえば、朱色の鳥居です。
参道の大きな鳥居だけでなく、社殿の奥には、小さな鳥居が連続する場所があります。
その名も「お塚参拝道」。
西武鉄道の沿線紹介でも、朱色の鳥居が並ぶお塚参拝道や、大小さまざまな狐の像が見どころとして取り上げられています。 [4]
しかし、どうして東京の住宅地に、京都を思わせるような鳥居の風景があるのでしょうか。
その答えは、神社の生まれ方にありました。
東伏見稲荷神社は、1929年(昭和4年)に創建されました。 京都にある伏見稲荷大社から御分霊を迎えて生まれた神社です。 [5]
「御分霊」とは、神様の御神霊を別の場所にお迎えし、お祀りすること。
関東でも伏見稲荷大神をお祀りしたいという信仰者たちの願いが、創建の背景にありました。
なるほど。 東京に突然、京都そっくりの観光施設を造ったわけではなかったのです。
ここには、京都の伏見稲荷大社につながる、実際の信仰の歴史がありました。
鳥居の奥は、ただの撮影スポットではない
鳥居が連なる風景は、写真に残したくなる場所です。 ただ、ここで忘れたくないのは、お塚参拝道が信仰のための場所だということ。
鳥居の先には小さなお社があり、参拝する人のための道が続いています。
セーラームーンのロケ地という入口から興味を持ったとしても、その奥には、作品よりずっと長い時間を持つ神社の歴史があります。
そして、その歴史を調べると、もう一つ意外なことが分かります。
この神社、街の名前にも大きく関わっていたのです。
まさか、神社が「東伏見」という駅名まで生んだ?

西武新宿線の「東伏見駅」。
東京にある駅なのに、なぜ京都で有名な「伏見」という名前が付いているのでしょうか。
東伏見稲荷神社があるから、東伏見駅。
今なら自然に思えるこの関係ですが、昔からそうだったわけではありません。
実は、現在の東伏見駅は、開業当初「上保谷駅」という名前でした。
その後、東伏見稲荷神社が創建されたことを受けて、「東伏見駅」に改称されています。 東京都の広報資料でも、神社が東伏見という地名の由来になったと紹介されています。 [6]
神社が駅名から名前をもらったのではありません。
先に神社が生まれ、その名前が駅へ、そして街へと広がっていったのです。
上保谷駅が開業
現在の東伏見駅は、もともと別の名前でした。
東伏見稲荷神社が創建
京都・伏見稲荷大社から御分霊を迎え、神社が誕生。駅名も東伏見へ改称されました。
東伏見という名前が地域に定着
神社に由来する名前が、現在の街を表す地名としても使われるようになります。
実写版セーラームーンのロケ地として登場
すでに長い歴史を持っていた神社の風景が、テレビ作品の映像にも結び付いていきます。
1929年と、2003年。 その間には74年という時間があります。
作品のために用意されたセットではなく、街の名前にも影響を与えた歴史ある神社が、後年のテレビ作品にも登場している。
この時間の重なりが、東伏見稲荷神社を調べる面白さです。
神社の歴史と駅名の関係は、ekiripの別記事 「東伏見はなぜ『伏見』?駅名を生んだ稲荷神社の歴史」 でも詳しく紹介しています。
セーラームーンの風景を探すなら、どこを見ればいい?
ここまでの話を知ると、実際に東伏見稲荷神社を歩いてみたくなります。
ただし、作品のロケ地を訪ねるときには、少し注意したいことがあります。
今の神社の風景が、2003〜2004年の映像とすべて同じとは限りません。
撮影から20年以上が経っています。 季節による木々の様子、周囲の建物、境内の細かな配置や整備状況などが変わっている可能性があります。
そのため、全国ロケ地ガイドに記載されている「赤い鳥居」という手掛かりをもとに、まずは参道の鳥居や境内の様子を見比べてみるのがよさそうです。
ここで大切なのは、撮影当時と現在の風景を無理に一致させないこと。 同じ角度の写真が撮れなくても、それだけでロケ地情報が間違っているとは限りません。
境内を歩くときは、参拝を第一に
東伏見稲荷神社は、今も参拝者が訪れる神社です。
撮影場所を探す場合も、参拝する人の通行を妨げず、立ち入りが制限された場所には入らないようにしましょう。 写真や動画の撮影については、現地の案内や神社の指示を優先してください。
テレビの中の風景を探す時間と、神社に参拝する時間。 その両方を大切にできると、単なるロケ地探しとは違った街歩きになります。
東伏見稲荷神社への行き方は?武蔵関からも歩ける?
東伏見稲荷神社の最寄りとして案内されているのは、西武新宿線の東伏見駅です。
東京都の公式観光サイト「GO TOKYO」では、東伏見駅から徒歩約7分と紹介されています。 また、西武鉄道の沿線紹介では、東伏見駅南口から徒歩約10分、西武柳沢駅南口から徒歩約8分と案内されています。 [7] [4]
武蔵関駅周辺からも東伏見方面へ街歩きできますが、神社へ向かうなら、まずは東伏見駅を起点にするのが分かりやすいでしょう。
- 名称
- 東伏見稲荷神社
- 住所
- 東京都西東京市東伏見1-5-38
- 最寄駅
- 西武新宿線 東伏見駅
- 徒歩目安
- 東伏見駅から約7〜10分、西武柳沢駅から約8分(案内元により差があります)
- 開門時間
- 西武鉄道の2022年取材時の案内は6:30〜17:00。参拝前に最新の開門時間を要確認
- 電話
- 042-461-1125
- 公式サイト
- 東伏見稲荷神社
あの朱色の鳥居が、少し違って見えてくる

東伏見稲荷神社と『美少女戦士セーラームーン』。
最初は、人気作品のロケ地になったという、ちょっと意外な地域の話でした。
しかし調べてみると、そのつながりには、いくつもの層がありました。
火野レイが暮らす火川神社のモデルは、都心の麻布氷川神社。 一方、東伏見稲荷神社は実写版のロケ地として記録された場所です。
そして、その東伏見稲荷神社は、テレビ作品よりはるか以前の1929年に、関東の人々の信仰を背景に誕生しました。
やがて、その名前は駅名となり、街の名前にもなりました。
つまり、東伏見稲荷神社の鳥居の向こうには、少なくとも二つの異なる時間が重なっています。
セーラームーンの映像に残された2000年代の風景と、街の名前を生んだ昭和初期からの歴史。

東伏見駅を降りて、あの朱色の鳥居へ向かうとき。 その景色は、ただの神社でも、ただのアニメのロケ地でもありません。
一つの場所に、信仰の歴史と作品の記憶が重なっている。
いつもの街の鳥居が、少しだけ違って見えてきます。
参考資料・出典
記事内の作品情報、撮影地、神社の由緒、アクセス情報は以下の公開資料を参照しました。 ロケ地に関する情報と神社の公式な歴史情報は区別して掲載しています。
- 全国ロケ地ガイド|美少女戦士セーラームーン(実写版)ロケ地情報・マップ 発行:全国ロケ地ガイド https://loca.ash.jp/info/2003/s2003_sailormoon.htm 実写版の放送情報・登場人物・東伏見稲荷神社の撮影地情報を参照。
- 美少女戦士 セーラームーン 実写版|制作実績 発行:株式会社特撮研究所 https://tokusatsu.co.jp/works/works-366/ 2003年の実写版作品と制作情報を確認。
- 東京、漫画やアニメの舞台として知られる神社10選 発行:Time Out Tokyo https://www.timeout.jp/tokyo/ja/things-to-do/tokyo-shrines-manga-and-anime 麻布氷川神社と火川神社のモデルについて参照。
- 西武線観光情報|東伏見稲荷神社 発行:西武鉄道/2022年12月取材 https://www.seiburailway.jp/railways/fillute/goout/202212-05/ お塚参拝道・鳥居・アクセス・取材時の開門時間を確認。
- 東伏見稲荷神社|市内おすすめスポット 発行:西東京市/2017年7月19日更新 https://www.city.nishitokyo.lg.jp/daisuki/spot/higasihusimiinari.html 1929年の創建、京都・伏見稲荷大社からの御分霊、所在地を確認。
- 東京のオアシス|武蔵野の石神井川に沿って・東伏見界隈 発行:東京都/2017年1月31日更新 https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2017/02/oasis.html 東伏見稲荷神社と地名の由来、石神井川沿いの地域情報を参照。
- 東伏見稲荷神社|東京の観光公式サイト GO TOKYO 発行:公益財団法人東京観光財団/2025年12月25日更新 https://www.gotokyo.org/jp/spot/1258/index.html 東伏見駅からの徒歩所要時間と所在地を確認。
情報確認日:2026年10月23日。作品の権利は各権利者に帰属します。本記事は作品・施設との公式な提携を示すものではありません。ロケ地の特定は公開されているロケ地情報をもとにしており、撮影当時の状況や制作者の選定理由を独自に確認したものではありません。参拝時間や現地の撮影ルールは変更される場合があります。