
飯能の森に、キノコの形をした家が建っている。
屋根は丸く、建物の輪郭はゆるやかに曲がり、小川のそばには童話に出てきそうな「水あび小屋」まである。
まるで北欧の絵本を、そのまま現実の森に置いたような風景です。
ところが、ここは民間のテーマパークではありません。
飯能市が運営する、入園無料の公立公園。しかも、ムーミンのキャラクターを再現するために造られた施設とも少し違うのです。
では、なぜ埼玉県の飯能に、こんな不思議な森ができたのでしょうか。
その始まりをたどると、フィンランドの作家と日本の自治体が交わした「手紙」に行き着きます。
情報最終確認:2026年10月20日。飯能市の2026年度利用案内を基に作成しています。開園日や建物の利用状況は訪問前に公式情報をご確認ください。
なぜ飯能に「キノコの家」があるのか?

まず気になるのは、森の中に建つ「きのこの家」です。
普通、家といえば四角い壁に、まっすぐな柱。ところがこの建物は、地面からにょきっと生えたキノコのような姿をしています。
いかにもムーミンの世界らしい建物ですが、ここで少し考えてみたくなります。
ムーミンの世界を再現するなら、キャラクターの姿や物語の場面を前面に出す方法もあったはずです。
それなのに、なぜ「不思議な形の家」が主役なのでしょう。
手掛かりは、この公園が目指しているものにあります。
飯能市が説明する公園の基本的な考え方は、子どもも大人も、生き物も草花も、互いを受け入れながら自由に時間を過ごすこと。[1]
つまり、この森は物語の登場人物を眺めるだけの場所ではなく、自分自身がその空間の中で過ごせる場所として理解すると、ぐっと分かりやすくなります。
変わった建物の形にも意味が見えてきました。
けれども、まだ一つ大きな疑問が残っています。
なぜ飯能市は、フィンランドの童話作家の考え方を公園づくりに取り入れたのでしょうか。
始まりは、フィンランドの作家との「手紙」だった

その作家の名前が、トーベ・ヤンソン。
1914年にフィンランドの首都ヘルシンキで生まれ、世界的に知られる「ムーミン」シリーズを生み出した人物です。
童話作家としての印象が強いですが、画家、挿絵作家、小説家など、さまざまな分野で活動していました。[1]
そして飯能市の公式説明には、この公園の誕生について、見逃せない一文があります。
遠い北欧の作家と、埼玉県の自治体。
この二つが手紙でつながっていたというのは、少し意外ではないでしょうか。
公園が開園したのは1997年(平成9年)。現在のように、インターネットで気軽に海外と交流できる時代になる前のことです。
ただし、公開されている公式紹介では、手紙の全文や具体的な往復回数までは確認できません。どの言葉がどの建物の設計に直接反映されたのかを、断定することはできません。
それでも、確かに分かることがあります。
飯能市はトーベ・ヤンソンの名を掲げ、その作品に通じる自由さや、自然との共生を大切にする空間を、公園という形にしたのです。
では、その考え方は、園内のどこに表れているのでしょう。
「きのこの家」は、見るための家ではなかった
もう一度、最初のキノコの家に戻ってみましょう。
屋外から眺めるだけでも十分に不思議な建物です。しかし、飯能市の施設紹介を読むと、この家の別の顔が見えてきます。
1階には暖炉のある「いこいの広間」が設けられています。2階にも個性的な空間が続きます。[2]
なるほど、外観だけの飾りではありません。
建物の中に、人が過ごす場所が用意されているのです。
ここで、キノコという形の見え方が変わります。
もし、森の中に普通の公共施設が建っていたら、そこは「建物のある公園」に見えるでしょう。
ところが、キノコのような家があると、森そのものが誰かの暮らす世界のように感じられます。
建物が自然から切り離されたものではなく、森の風景の一部になっている。
これは公式資料に書かれた設計者の直接の発言ではなく、建物の姿と公園の理念を重ねた読み解きです。
とはいえ、外観と内部の両方に工夫があることは確かです。
しかも、この公園には、キノコの家以外にも一風変わった建物があります。
水あび小屋のそばに、なぜ森の図書室がある?

園内を歩くと、小川や池と一緒に、小さな「水あび小屋」がある風景に出会えます。
2014年に撮影された公園紹介資料にも、その姿が記録されています。[7]
まるで童話の登場人物が、今にも水辺から帰ってきそうな小屋です。
ただし、名前に「水あび」とあっても、現在の来園者が自由に入浴できる施設という意味ではありません。水浴び用の設備として利用できるという公式案内も確認できないため、風景を楽しむ建物として捉えるのが適切です。
ここで面白いのは、園内の建物がどれも同じ役割ではないことです。
森の家には、物語を読む場所がある
「森の家」の1階にはトーベ・ヤンソンに関する資料展示があり、2階には自由に読書を楽しめる図書コーナーがあります。
さらに壁には、飯能の特産材「西川材」のヒノキの丸太が使われ、波打つような独特の形をつくっています。[2]
フィンランドの作家の世界を表現する建物に、飯能の木材が使われている。
ここで突然、北欧の物語と地元の森林がつながります。
単に外国の風景を持ってきたわけではない、ということです。
子ども劇場の屋根は、100年を超えるヒノキ
「子ども劇場」は、コンサートなどの催しに使われるホールです。
ドーム状の屋根には、樹齢100年を超えるヒノキの丸太が使用されています。
さらに建物の地下には、池の水音が響く洞窟のような空間があり、管理事務所やトイレが設けられています。[2]
見た目はファンタジー。でも、中身はきちんと公共施設。
この組み合わせが、なかなか面白いところです。
建物によって、休む、読む、催しを楽しむ、森を眺めるといった異なる時間が用意されているのです。
ここまでの発見
きのこの家は人が過ごす建物。森の家は資料と本に出会う場所。子ども劇場は催しを楽しむ場所。
建物の不思議な姿だけではなく、それぞれの役割を知ると、公園全体が一つの小さな世界に見えてきます。
それなら、なぜ「ムーミン公園」ではないのか?
ここまで読んで、気づいたことはないでしょうか。
トーベ・ヤンソンといえばムーミン。
それなのに、この公園の正式名称は「トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園」です。
作品の名前ではなく、作者の名前が前に出ているのです。
ここには、この公園を理解するうえで大切な違いがあります。
同じ飯能市には、ムーミンの物語や登場人物をテーマにした「ムーミンバレーパーク」もあります。
しかし、あけぼの子どもの森公園は、それとは別の施設です。
ムーミンバレーパークが作品世界を体験するテーマパークなら、あけぼの子どもの森公園は、作者の考え方に触れながら自由に過ごす公園。
そう考えると、キャラクターが目立つ仕掛けや乗り物がなくても、不思議ではありません。
トーベ・ヤンソンの名前が公園に付いているのは、作品のイメージだけではなく、本人との交流を通じて生まれた場所だからです。[1]
そして、もう一つ見逃せない違いがあります。
この公園は入園無料なのです。
こんな建物があるのに、なぜ入園無料なのか?

キノコの家があり、森の図書コーナーがあり、木造の劇場まである。
ここまで個性的な施設なら、入場料金が必要だと思っても不思議ではありません。
しかし、飯能市の公式FAQは、入園料を「無料」と明記しています。[3]
理由を考えるうえで重要なのは、ここが民間の有料テーマパークではなく、市の公園であるということです。
特別な建物があっても、基本にあるのは、子どもから大人までが自然の中で過ごせる公共の場所という役割です。
公園の理念にある「それぞれが自由に時間を過ごす」という考え方とも重なります。
必ず何かを体験しなくてもいい。遊具で遊ばなくてもいい。読書をしても、建物を眺めても、森の散策を楽しんでもいい。
何もしない時間にまで、入園チケットを求めない。
もちろん、無料運営の財源や具体的な料金設定の経緯については、今回確認した公開資料だけでは断定できません。
ただ、入園無料という現在の仕組みが、公園の持つ自由な過ごし方と相性がよいことは確かでしょう。
飯能の森だからこそ、北欧の世界が似合う?

ここで、公園の外側にも目を向けてみます。
園内には森があり、池や小川があり、建物には地元のヒノキが使われています。
北欧らしさを感じる理由は、単に建物の形が変わっているからだけではありません。
建築と木々と水辺が、一緒に風景をつくっているからです。
例えば「森の家」に使われている西川材。
これは、飯能周辺の森林文化と結びつく地域の木材です。
遠いフィンランドの作家の感性を、飯能の木を使った建築で表現する。
この組み合わせは、北欧をそのままコピーすることとは違います。
飯能の森の中に、この土地らしい材料を使って、物語を感じる場所をつくっている。
そう読み解くと、「なぜ飯能に北欧の公園があるのか」という最初の疑問にも、別の角度から答えが見えてきます。
ただし、飯能の地形や森林が公園の立地決定にどこまで影響したかは、確認できた資料からは断定できません。
分かるのは、少なくとも現在の園内では、地域の木材と自然が世界観を支えているということです。
訪れる前に知っておきたい、2026年の変更点
ここまで読んで、実際に森の中を歩いてみたくなった人もいるかもしれません。
その前に、一つ大切なお知らせがあります。
2026年度から、この公園の開園日が季節ごとに変わる方式へ試行的に変更されています。
特に注意したいのは、夏と冬の一部期間は、月曜日だけでなく火曜日・水曜日も原則休園になることです。[4]
トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園|利用案内
所在地 埼玉県飯能市大字阿須893番地の1 入園料 無料 開園時間 9:00〜17:00 最終入園 16:40 園内建物 原則9:00〜16:30 繁忙期の休園 4〜5月、9月中旬〜12月、3月下旬は原則月曜日休園。月曜日が祝日の場合は翌平日休園。 閑散期の休園 6月〜9月上旬、1月〜3月中旬は原則月〜水曜日休園。祝日による振替あり。 年末年始 12月28日〜1月4日休園 最寄り駅 西武池袋線「元加治駅」から徒歩約20分 駐車場 周辺スポーツ施設との共用駐車場などを利用可能。料金無料、混雑する場合あり。 電話番号 042-972-7711 ライトアップ 2026年3月29日をもって休止。再開時期未定。開園曜日は季節区分の切り替え日や祝日によって変わります。臨時休園、園内の一部立入制限、建物の利用状況も含め、訪問日の公式カレンダーを確認してください。
遊具を持ち込む公園ではない
もう一つ覚えておきたいのが、園内の遊び方です。
この公園は起伏が多いため、ボール遊び、フリスビー、自転車、キックボードなど、さまざまな遊具の持ち込みが制限されています。
テント類やドローンも使用できません。[3]
「子どもの森」という名前ですが、大型遊具で思いきり体を動かすタイプの公園とは少し違います。
建物の形を観察したり、森を散策したり、読書を楽しんだり。
公園に来たからといって、何かをしなければならないわけではありません。
その自由さが、この場所らしい過ごし方なのかもしれません。
キノコの家が、少し違って見えてくる
最初は、森の中に突然現れた、かわいらしいキノコの形の家でした。
ところが、その背景をたどると、1997年の開園より前に交わされたトーベ・ヤンソンとの手紙があり、自然の中で自由に過ごすという考え方がありました。
建物の中には、人がくつろぐ場所や本を読む場所があり、その一部には飯能のヒノキが使われています。
つまり、あのキノコの家は、単なる写真映えするオブジェではありません。
北欧の作家の世界観と、飯能の森と、人が自由に過ごす時間が重なった場所。
そんなふうに考えて、もう一度あの丸い屋根を見てみると、最初とは少し違った姿に見えるのではないでしょうか。
物語の世界を眺めに行ったつもりが、いつの間にか、自分もその森で時間を過ごしている。
そのこと自体が、この公園の一番不思議な仕掛けなのかもしれません。
飯能の森と北欧を、もう少し楽しむなら
キノコの家の背景を知ったら、次は実際の歩き方や、同じ飯能にあるもう一つの北欧の世界を見比べてみるのも面白そうです。
参考資料・出典
資料確認日:2026年10月20日。公園の理念、建物、利用案内は飯能市の公式公開情報を優先しています。
-
公園について
飯能市|トーベ・ヤンソンとの手紙の交流、1997年の開園、公園の理念、作家紹介。 https://www.city.hanno.lg.jp/akebono/about/2115.html 公式ページ更新:2026年3月31日/確認:2026年10月20日 -
園内の建物のご案内
飯能市|きのこの家、子ども劇場、森の家、カフェプイストの設備と特徴。 https://www.city.hanno.lg.jp/akebono/about/11823.html 公式ページ更新:2026年1月9日/確認:2026年10月20日 -
よくあるご質問
飯能市|入園料、無料駐車場、ライトアップの休止、遊具・テント類の持ち込み制限。 https://www.city.hanno.lg.jp/akebono/shitsumon/2114.html 公式ページ更新:2026年4月16日/確認:2026年10月20日 -
トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園の開園日等の変更(試行)のお知らせ
飯能市|2026年度の季節別開園日、休園日、ライトアップ休止。 https://www.city.hanno.lg.jp/shiseijoho/yakusho_madoguchiannai/r8kaichojikanhenko/13243.html 公式ページ更新:2026年2月25日/確認:2026年10月20日 -
アクセス
飯能市|所在地、元加治駅からの徒歩所要時間、駐車場案内。 https://www.city.hanno.lg.jp/akebono/access/2108.html 公式ページ更新:2023年3月31日/確認:2026年10月20日 -
トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園 公式トップページ
飯能市|2026年度開園カレンダー、9:00〜17:00の開園時間、建物利用時間、最終入園時間。 https://www.city.hanno.lg.jp/akebono/index.html 確認:2026年10月20日 -
水あび小屋|トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園
公園へ行こう!|水あび小屋の位置と外観を確認できる過去の写真資料。現在の利用可否を保証するものではありません。 https://www.go2park.net/photo/moomin_bathinghut.html 写真撮影:2014年8月17日/ページ確認:2026年10月20日