武蔵横手駅にいた「ヤギ社員」とは?草を食べて働いた西武鉄道のエコパートナー
西武池袋線の山あいにある武蔵横手駅。かつてこの駅には、電車を運転するわけでも、改札に立つわけでもない、ちょっと変わった“働き手”がいました。駅の線路脇に生える草を食べて除草するヤギたちです。
西武鉄道が公式に呼んでいたのは「ヤギ社員」ではなく「エコパートナー」。2009年8月から、機械による草刈りをヤギの食事に置き換える環境施策として始まりました。2026年現在、武蔵横手駅でヤギによる除草が続いていることは確認できず、現在の公式駅ページにもヤギの案内はありません。つまりこれは、武蔵横手駅に残るちょっとほっこりする西武線の記憶です。
西武鉄道公式の駅情報・環境資料、当時の報道、後年の現地記録を確認しています。ヤギたちの最晩年については西武鉄道の現行ページで詳細な公式記録を確認できないため、民間記録と区別して記載しています。
- 開始:2009年8月
- 場所:武蔵横手駅線路脇の西武鉄道社有地
- 仕事:雑草を食べることによる除草
- 目的:草刈り機の使用を減らし、CO₂削減につなげる環境施策
- 代表的なヤギ:そら・みどり・だいち・はな
- 西武鉄道での呼称:「エコパートナー」
- 現在:ヤギによる除草は確認できず、過去の取り組み
点数ではなく、この場所の特徴を6方向の感覚で表しています。
交通の便利さ
駅そのものが地域散策の起点になる
日常の買い物
山と緑に囲まれた西武線らしい自然環境
外食・カフェ
ヤギによる除草という珍しい駅の歴史が残る
子育て環境
静かな駅でゆっくり景色を眺めやすい
自然・散歩
鉄道と環境施策を一緒に学べるエピソードがある
地域のにぎわい
2025年度の1日平均乗降人員は234人と少ない
2026年現在、「ヤギに会える駅」として訪れるのはおすすめできません。現在の西武鉄道公式・武蔵横手駅ページにはヤギの飼育案内は掲載されていません。この記事はかつて武蔵横手駅で行われていた取り組みを紹介する歴史記事です。
そもそも武蔵横手駅の「ヤギ社員」とは?
始まりは2009年8月。西武鉄道は武蔵横手駅の線路脇にある社有地で、ヤギに雑草を食べてもらう除草を始めました。
西武鉄道の環境報告書では、それまで社員が機械を使用して行っていた除草をヤギが草を食べることによって代替し、地球環境保護につなげる取り組みとして紹介されています。
対象となった土地は当時の報道で約5,000平方メートル。ただ放牧していたのではなく、れっきとした西武鉄道の環境施策だったわけです。
「ヤギ社員」は愛称。公式には“エコパートナー”
ネットや鉄道ファンの間では「ヤギ社員」「草刈り係」などと親しまれましたが、西武鉄道が使っていた表現は「エコパートナー」です。
仕事はいたってシンプル。草を食べる。 それが除草になり、草刈り機を動かす機会を減らす。人と機械だけで維持していた鉄道用地に、動物が加わったユニークな環境対策でした。
最初の“社員”は「そら」と「みどり」
武蔵横手駅で除草を始めたオスのヤギ。みどりとともに「そらとみどりの家」で暮らしていました。
そらとともに2009年から活躍したメスのヤギ。2020年の西武鉄道「かわら版」でも、除草を行うエコパートナーとして紹介されています。
ヤギ一家の一員として成長し、西武鉄道の環境報告書にも名前が登場しました。
2012年に生まれたメスの子ヤギ。一般公募で名前が選ばれ、833件の応募の中から「はな」に決定しました。
「はな」という名前にはちょっとした物語があります。名前の公募では延べ833件の応募が集まり、そのうち「はな」が110件で最多。誕生した季節にハナミズキが咲いていたことも名前の由来として紹介されました。
草を食べるだけだったヤギが、いつしか名前を持ち、家族になり、駅を象徴する存在になっていった。
なぜヤギに草刈りを任せたの?
最大の理由は環境負荷を減らすことです。
草刈り機による除草では燃料や機械を使います。一方、ヤギなら生えている草そのものが食事になります。西武鉄道は2009年から、この仕組みをCO₂削減につながる環境対策として実施しました。
処理すべき草を、ヤギがその場で食べるという非常にシンプルな仕組み。
機械による除草の一部を置き換え、環境負荷を減らす狙いがありました。
ホームや車内からヤギを眺められ、「ヤギのいる駅」として知られるようになりました。
2013年にはヤギの草刈り4周年を記念したイベントも開催されました。
武蔵横手駅とヤギの歴史を時系列で見る
武蔵横手駅線路脇の社有地で、「そら」と「みどり」による除草が始まります。
833件の応募が集まり、「はな」に決定。駅のヤギが単なる除草要員ではなく、沿線で親しまれていたことが分かるエピソードです。
「武蔵横手 日高市・飯能市 感謝祭」が開かれ、通常は立ち入れないヤギ広場が初めて一般開放されました。
「みどり」「だいち」「はな」の3頭が草を食べる様子が、西武鉄道の環境活動として紹介されています。
西武鉄道の「かわら版」2020年10月号にも、武蔵横手駅で除草する「みどり」が掲載されています。
個人による現地記録では、最後まで残っていた「みどり」が2021年に亡くなったと報告されています。西武鉄道の現行ページでは没年月日の公式案内を確認できないため、ここは民間記録として扱います。
2013年には「ヤギ広場」が初めて一般開放された
ヤギたちがどれほど親しまれていたかを象徴するのが、2013年8月の「武蔵横手 日高市・飯能市 感謝祭」です。
ヤギによる草刈り開始から丸4年を記念して開催され、普段は入ることのできなかった「ヤギ広場」を一般開放。西武鉄道工務部による仕事紹介やレール切断・穴あけの実演、子ども向け制服撮影なども行われました。
「ヤギを見に駅へ行く」。現在では少し不思議に感じますが、当時の武蔵横手では、それが立派なお出かけの目的になっていました。
数字で見る現在の武蔵横手駅
武蔵横手駅の1日平均乗降人員。西武鉄道全駅の中でも利用者がかなり少ない駅です。
高麗駅と東吾野駅の間にある武蔵横手駅は、2025年度の1日平均乗降人員が234人。利用者の少なさも、この駅独特の静かな空気につながっています。
ヤギを見ることを目的にするのではなく、「かつてここでヤギが働いていた」と知ったうえで駅の山あいの風景を眺めると、何気ない草地も少し違って見えてきます。
ヤギがいなくなった今も「ヤギの駅」として記憶されている
面白いのは、ヤギによる除草が過去のものになっても、武蔵横手駅を検索すると今なお「ヤギ」という言葉が多く残っていることです。
駅に巨大な観光施設があるわけでも、有名な駅ナカグルメがあるわけでもありません。それでも「草を食べて働くヤギがいた」という一つの物語が、駅そのものの個性になりました。
効率だけを考えれば、単なる除草方法の一つだったのかもしれません。でも、そこに「そら」「みどり」「だいち」「はな」という名前がつき、通勤・通学の車窓から見守る人が生まれたことで、環境施策はいつしか沿線の思い出になっていきました。
SNS・口コミ・記録に残る「ヤギのいる駅」
現在の武蔵横手駅はどんな駅?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 駅名 | 武蔵横手駅 |
| 路線 | 西武池袋線 |
| 所在地 | 埼玉県日高市横手字山下750 |
| 隣駅 | 高麗駅/東吾野駅 |
| 駅係員 | 常駐せず、定期的に巡回 |
| 2025年度乗降人員 | 1日平均234人 |
| ヤギ | 現在の公式駅案内では飼育情報なし |
わざわざ降りる価値はある?
「今はヤギがいないなら、武蔵横手で降りる意味はない?」と思うかもしれません。
でも、この駅は有名観光地を目的に降りるタイプの駅というより、西武線が都会から山へ変わっていく境目を味わう駅です。
ホームのすぐ向こうに山の緑があり、国道299号を走る車の音と電車の音が混ざる。その脇に、かつてヤギたちが草を食べていた。そんな背景を知ってから降りると、何もないように見える駅にちゃんと物語が見えてきます。
武蔵横手の面白さは「なくなったもの」にもある
観光では、新しいものや今見られるものばかりに目が向きがちです。でも街には、「昔ここにあった」「かつてこんなことをしていた」という記憶もあります。
ヤギの除草はもう過去の話。それでも、その出来事を知っているだけで駅の草地が単なる草地ではなくなります。こういう小さな歴史を拾えるのも、途中下車の面白さです。
この駅と相性がいい人
大型駅とは正反対の、山あいの小さな駅らしさがあります。
「ヤギが鉄道会社の環境活動を手伝っていた」という珍しいエピソードを楽しめます。
2009年から行われていた、かなり早い時期の“生き物を使った除草”の事例です。
2025年度の利用者は1日平均234人。にぎやかな観光駅とは違う空気があります。
この武蔵横手の話を575にしてみた
線路のとなり
夏の草
武蔵横手駅のヤギ|よくある質問
一言で言うと
武蔵横手は、「草を食べること」が駅の名物になった、西武線でもちょっと特別な駅。
2009年、環境対策として始まったヤギによる除草。それがいつの間にか「ヤギのいる駅」という武蔵横手ならではの風景になりました。
現在はもう同じ景色を見ることはできません。それでも、電車のホーム脇で「そら」や「みどり」たちが黙々と草を食べていた時間は、西武線沿線のちょっといい歴史として残っています。
次に武蔵横手駅を通るときは、窓の外の草地を少しだけ気にしてみてください。そこにはかつて、“草を食べるのが仕事”だった西武鉄道のエコパートナーたちがいました。